春夏秋冬〜五十の調

□以心伝心
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リーリーと虫の声が響く夜。


細い細い月にうっすらと照らされるのは、真っ赤に咲いた彼岸花。

月と同じく、細く、すらりと弧を描く。


そして、貴方の鋭利で綺麗な横顔。




真夜中、ようやく月が東の空に顔を出した頃。


りんは未だに起きていた。


目が覚めたわけでは無く。


夜通し、起きていた。


手に、美しい銀糸を絡ませ、そっと梳く。


りんの太ももに預けられた頭から流れるそれは、微かな月光を浴びてキラキラと光って見える。


りんの膝を枕に、殺生丸は静かに寝息を立てていた。




こんな事は初めて。


殺生丸様が寝ちゃった…。




だからりんは眠らない。


滅多に無い機会を満喫しようと思った。




起きないでね、起きちゃダメだからね。




そう願いながら、りんはゆっくり殺生丸の頭を撫でてやる。


幸いにも、彼の胸は微かな上下を繰り返していた。




気紛れにりんの頭を撫でてくれる、大きな手ではないけれど。


いつも優しく抱き留めてくれる、逞しい胸でも無いけれど。






私はこの人を守ってあげたい。






どんな悲しみや苦しみも。


受け止めてあげられる存在になりたい。






小さな手が愛しげに妖の頬を包む。




ねぇ殺生丸様?


りんが守るから。


安心して眠ってね。








真綿でくるまれるような心地よい感情が、頬から流れ込んで来る。


りんの手は熱いくらいで。

冷たい己の肌に良く馴染んで行った。




目を閉ざし、静かに呼吸を続ければ。

額の月に、柔らかい唇の感触。




このまま本当に寝入ってしまうのも、




悪くは無いか。






(終)
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