春夏秋冬〜五十の調

□会いたくて
1ページ/2ページ



しっとりと湿っぽくも、日中よりは冷えた風が吹く夜空。


そこには白砂利を振り撒いたような、気の遠くなる数の星々。


今宵姿を見せぬ朔月に取って代わる白銀の妖は、静かに星降る天を見つめていた。









真直ぐに腕を伸ばして夜空を仰ぐ。

一本立てた人差し指で、遠く離れた星々を繋いでいた。


にこにこと笑って、夜空に指で描いた図形はいびつな物ではあったが。

遥かな距離をりんの小さな指一本で結ばれる様を見て、案外大した隔たりでは無いのかと錯覚してしまう。


空を切っただけの絵に大層満足そうに微笑み、私の手を握って来た。


その微笑みは、そのまま闇に溶けてしまいそうな程に儚くて、危うくて。


思わず握り返した手は、予想よりも小さくて、小さくて…。


その小さな手を強く握り締める。



――りん、泣かないよ?

――…そうか…。

――でも、会えないのは、寂しい…。

――…月に三度は、顔を見に行く…。

――うん、待ってる。何時でも、待ってるね…。









ふわり、微かに香りが届いた。




……嘘をつけ……




…泣いているではないか…




眼下に広がる、夜闇に沈んだ村を見る。


今すぐ駆け出してしまいそうな身体を何とかとどめた。




今でも、お前は待っているのか?


今でも私はお前にとって必要なのか?


互いに時の上を生きて。


何かがどんどん変わっていってしまう。


変わっていないのは、今も輝くこの空だけだ。




会いたい。


会いたくない。


会いに行きたい。


会いに行けない…。




会いたい……。




空に一筋、星が尾を引いて流れて行った。





(終)

08.8.25 改稿
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ