小説

□時には、ふたりで
1ページ/4ページ

『時には、ふたりで』

柔らかな陽が地に降り注ぎ、人々がまどろみに誘われ始める、ある午後のこと。

穏やかな風に銀色の髪を靡かせ、殺生丸はある場所へと向かっていた。
金の瞳が見据える先は、人里から離れた場所に在る屋敷。
その屋敷は、かつて旅をしていた頃に連れ歩いていた人間の娘・りんを妻として迎えたのを機に、新たに居を構えることとなった屋敷である。
やがてりんはその屋敷でひとりの男の子を産み、邪見や侍女、それに父となった殺生丸に見守られながら大切に我が子を育てていた。

そんな屋敷の庭で、殺生丸と同じ銀の髪を靡かせながら、楽しそうに走り回る幼子がひとり。
そう、この幼子こそ殺生丸とりんの間に生まれた息子ーー白銀丸である。

ようやく屋敷まで戻ってきた殺生丸は白銀丸の匂いを感じ取ると、息子がいる庭へと歩みを進めてゆく。
色とりどりの花が咲き誇る庭へと辿り着くと、白銀丸も殺生丸と同様に父の匂いを感じ取ったのか、一目散に殺生丸のもとへと駆けて来た。
「ちちうえ!おかえりなさいっ」
嬉しそうに殺生丸に駆け寄るその姿は、幼い頃のりんの姿を彷彿とさせる。

殺生丸はその場に跪くと、白銀丸に向かって口を開いた。
「母はどうした?」
「ははうえはお出かけしちゃったの」
そう言ってどこか寂しそうな様子を見せる白銀丸。
常ならば、白銀丸の傍にはいつもりんの姿があるのだが、今は白銀丸ただひとりしかいない。

殺生丸は訝しげな表情で白銀丸を見遣ると、白銀丸はそのまま言葉を続ける。
「かごめおばさまのとこに行ったんだよ。すぐにかえってくるって」
「...そうか」
そうして殺生丸は白銀丸を抱き上げてその場から立ち去ろうとすると、腕の中から声が聞こえた。
「ちちうえ、どこに行くの?」
白銀丸は金の瞳で殺生丸の顔を覗き込み、不思議そうに尋ねる。
「中に戻るぞ」
「うん!」
父に抱かれて嬉しいのか、白銀丸はにこにこと笑みを浮かべながら大きく頷いた。

.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ