文書壱
□春望
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――まだ、春は来ない。
近藤さん。あんたがいなくなって、ちょうど一年になる。
きっと江戸では、あんたの好きだった桜の花も散ってしまったころだろう。それなのにここでは、まだ桜の花は咲いてもいない。
この国の景色を、あんたにも見せてやりたかったよ。戦って戦って辿りついた北の地はとても寒くて、少し前までは見たこともないほどの真っ白な世界が広がっていた。とてもきれいで、何の穢れもない世界。美しいと思ったけど、その反面、一人でそこに立つのは怖かった。あまりにも無垢な輝きを放つ、その美しさが。
まるでなにもかも、その白にかき消されてしまいそうで。人の血で汚れきった俺という染みを、浄化するんじゃなく塗りつぶしてしまうような、そんな白が怖かった。
けど俺が恐ろしいと思った白い世界も、あんたならきっと純粋に喜んだだろうな。『キレイだな、トシ』って言うあんたを簡単に想像できて、思わず笑っちまった。
この寒く長い冬が明ければ、蝦夷にも春がやってくるんだろう。残った雪がとけて草木は青く芽ぶき、命の溢れる時が来る。
この国にも、桜は咲くのだろうか。
近藤さん。俺はまだ、生きようと思う。この命が尽きるまで戦いぬいて。
あんたのために。死んでいった仲間たちのために。そして俺たちの真選組のために。
それがあんたを罪人にしてしまった俺が、唯一できる罪滅ぼしだと思うから。いつかあんたに許してもらえるまで、俺は生きていく。あんたが俺に望んだように。
今ではこんな俺にでもついてきてくれるやつらがいるし、この蝦夷の国を護りたいとも思う。辛くないわけじゃないが、生きる理由にはそれで十分だ。
やっとそう思えるようになったんだ。