文書壱

□白梅夢(2)
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 結局すべての書類を書き終えて時計を見ると、すでに日付は変わり、午前2時を指していた。頭も完全に冷めたし、明日の――正確には今日の――仕上げなければならない書類もすべて終わらせた。
 達成感に浸りながら、仕事上がりの一服をしようと煙草に火をつける。苦味のある煙を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。固まってしまった体をのばし、やっと一息つく。
(風呂入って寝よう)
 部屋を出て浴場に向かう途中、土方はふと足を止めた。近藤の部屋の前だ。
 起こさないように、そっと障子を開けて中に入る。近藤はよく眠っていた。
 土方はその枕元に座った。夢を見ているのか、眉間にはしわが寄っている。
「近藤さん」
 土方は、つぶやくように彼の名を呼んだ。むろん近藤からはなんの返事もない。ただん、と小さく身じろぎしただけだった。
 ふっと土方は頬をゆるめた。そして近藤のかたい髪にふれる。
 愛しいと思う。誰よりも何よりも、愛しいと思う。
 どうしてもこの男の役に立ちたくて、いつだって隣にいたくて、土方は自分の生きかたを貫いてきた。
 この男のためなら、鬼となることなどいとわなかった。幕府の犬と呼ばれようがかまわなかった。
 いったいいつだっただろうか。この気持ちに気づいたのは。女好きでまっすぐで、馬鹿が付くほどお人好しなこの男を愛しいと思ったのは。
「近藤さん」
 土方は再び名前を呼んだ。
 抱いた想いは、いつも空回りばかりで。彼を想えば想うほど、満たされない傷みは心の中に蓄積されていった。
 自分たちは幼い頃から兄弟のように育ってきた親友で、剣ひとつで真選組をつくり上げてきた戦友なのだ。
 それなのに抱いてしまったこの感情は、あまりにも不謹慎だ。
 だからこそ、この気持ちは胸の奥にしまいこんでおきたかった。
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