文書壱

□白梅夢(1)
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 最近、日課になってしまったことがある。

「副長、失礼します」
 土方が自室で書類の整理をしていると、隊士の一人が申し訳なさそうに報告に来た。
「どうした」
「局長が見当たりません」
 またか、と思いため息をつくが、もはやあきれることすら忘れてしまった。それどころか、むしろそれが自分の責務であるかのような気にさせられる。
「分かった。すぐに行く」
 土方はとりあえず返事をして、書きかけの書類をきりのいいところまで終わらせた。机の上においてあった煙草を取り出し火をつける。
 肺いっぱいに煙を吸い込み、2度目のため息とともに吐き出した。
(何で俺が……)
 あのお妙という女に惚れこんでから、近藤の行動はさらに厄介だ。今までだって女に惚れて痛い目を見ているのに、今回は特にひどい。
 一途といえば一途なのだろうが。あれではもはやストーカーだ。
 そのストーカー行為をものともせず、毎度近藤を半殺しにしているお妙もお妙だとは思うが。
 たださらに厄介なのが、その半殺しにされた近藤を連れ帰るのが、今ではすっかり土方の仕事になってしまっていることだ。
 はじめのうちは手のあいている隊士たちに連れ戻しに行かせたのだが、近藤が駄々をこねて動かない。そうなると平隊士の力ではどうにもできず、けっきょく土方が出て引きずってくるということが何度かあり、最終的には土方がその役目を負うことになった。
「めんどくせぇ」
 腹が立つ。行きたくなんてなかった。なぜ自分の仕事を中断してまで、あの男を迎えに行かなければならないのだろう。
 土方は短くなった煙草を、すでに底の見えない灰皿に押し付けた。
 ちっと舌打ちをすると、ジャケットをつかんで部屋を出た。
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