文書弐
□月光夜曲* 銀桂
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満月だった。
闇を虐げるかのように皓々と差す銀色を、同じ色彩をその身に纏った男は眺めていた。
狭い縁側に座り天を仰ぐ姿を見つけても、俺は何故ここにいるとは訊かなかった。
志士たちとの会合を終えて帰った隠れ家に、銀時はいた。
すぐ近くまで寄ると、ようやく俺の存在に気付いたかのように視線を移す。
その眼に俺をとらえながら、銀時は何も言わない。月光ははっきりと男の顔を照らし出しているのに、表情はいっこうに読み取れない。
(やはり、な……)
予感はあった。
隣に腰を下ろすと、俺は静かに銀時を見た。銀時も俺を見る。視線が交錯する。
月明かりに浮かぶ二つの瞳は、その男が流した血の色を映すかのように紅く昏い。まるで凪いだ湖のように波風一つ立てることなく、それは俺を見つめている。この瞳を俺は知っている。
(夜叉の目だ)
俺など通り越して、その瞳が見るのは己が創った血の海の向こう。遥か岸辺に佇む死者たちの幻影か。
ふと、銀時は虚空へと手をのばした。まるで何かに応えるかのように。
俺はその手をとった。そのまま包みこむように男を抱いて名前を呼ぶ。
「銀時」
駄目だ。まだ行くな。そちら側には。おまえにはまだ、護らねばならぬものがある。