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□人恋しい
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俺の知る志村妙という人間は外見は女だが中身はゴリラだ。
正直にいえば顔はなかなか整っていて黙っていれば俺のストライクだろう。
黙ってそこに座っていれば、の話だが。

がしかし。
いつの間にか俺の心に住み着いた厄介な感情はこのお妙によってもたらされている。
その言葉ひとつに苛々したり、表情に心臓を揺さぶられたり。
まあ、つまりだ。
一回りくらい違うであろうこの女に俺は惚れているのだ。

「銀さん」

俺の名前を呼ぶ声が好き。

「聞いてるんですか」

少し怒ったような声も好き。

「いい加減にしろよ、天パ」

「すいませんでした、これからはすぐに返事します」

いつまでもその声を聞いていたいと思って返事をしなければ大事な髪の毛をむしり取られそうになる。
そんなバイオレンスなお妙をどうして好きになってしまったのだろうか。
俺はSだったはずなのに、いつの間にMになったんだ。
その細い手首をつかめば少しだけ強張る顔。
なんだよ、取って食ったりしねえっての。
ふとした瞬間に垣間見える18歳の表情がまた俺を揺さぶる。
すれた大人には眩しいんですよ。

「お妙」

「なんですか、放してくださいな」

「いやですぅ。放したらお前どっか行っちゃうだろ」

ぎゅ、と軽く握りしめれば腕に力は入ったのがわかる。
警戒してんのな。
そうだね、それが正しいと思うよ?
俺だって一応男だしね。
いざってときにはお妙の力なんかじゃ撥ね退けられないしね?

「どこに行くっていうんです。外は雨なのに」

「あれ、また降ってんの?」

「さっきからずっとですよ」

そっと立ち上がって縁側から外を眺めるお妙を目で追っていた。
その流れるような動きは俺が手を放したからできるんだって、わかってる?

「秋雨」

「雨降ってっと焼き芋もできねえな」

「もう銀さんは食べることばっかり」

クスクスと笑いながら振り向いてその視界に俺を映す。
少し離れてしまった距離が悔しくてずりずりと這っていけばどうしたのかと不思議そうな顔をする。

「お妙、ちょっと座ってみ?」

「なんですか?」

「いーから」

不審そうに俺を見ながらも膝を折ってくれたお妙の太ももにごろりと頭を転がして。

「なんですか、急に」

「ちょっとだけ甘えたくなったんですぅ」

「手のかかる大きい子供はいりません」

「じゃあ小せえのならいいのかよ」

「そうですね、普通はそうでしょう?」

「ふーん」

お妙の太ももに触れている後頭部が温かい。
細い手が俺の髪の毛に触れて優しく撫でていく。
人にこんな風にされるのなんて、一体いつ以来だろうか。
コンプレックスの髪の毛を触られるのなんてごめんなんだがどうしてこんなに気持ちいいと想うのだろう。

「ふわふわ」

「綿あめみたいだろ?」

「食べたら甘いの?」

「んなわけねえじゃん」

ふふ、と笑ってまた撫でる。
あまりの気持ちよさに瞼を閉じればお妙の香りをより強く感じた。
夜の女なのに主張しすぎないこの香りは何なのだろう。
香水の類ではなさそうだけど俺にはわからない。
一日中この香りに包まれて暮らせたらどんだけ幸せなんだろうか。

「銀さん、寝ちゃうんですか?」

「んー……」

「おやすみなさい」

「おたえぇ」

「なんですか?」

「好き」

「はいはい」

「ホントだって」

「わかってますよ、私も大好きですから寝てくださいな」

ホントにわかってんのかね、この女。
俺がどんだけお前のこと好きか知ってんの?
新八抜かして考えたらきっと俺が世界で一番お妙のこと好きだよ?
ゴリラなんて目じゃねえっての。
まあ、新八はな…。新八だからよ、うん。
あいつには叶わねえ気がする。
姉ちゃん大好きだもんなー。お通ちゃんとどっちが好きかって聞いたらどっちって答えるんだろうな。

そんなことを考えながら俺の意識はどっかに飛んでった。




「姉上、これゴミに出してもいいですか?」

「燃えるかしら?」

「多分大丈夫ですよ」

「爆発しない?」

「むしろ爆発でもしてくれたほうが僕は嬉しいんですが」

「あらどうして?」

「姉上の膝枕なんて羨ましすぎです」

「新ちゃんもしてほしいの?」

「えっ?い、いやぁ…、もうそんな甘える歳でもないですし」

「銀さんは甘えたいお年頃なのかしら」

「…そろそろ三十路が近い男が甘えたいお年頃なんて、聞いたことないですよ」

「それもそうねぇ」

爆睡している俺の上でこんな会話がされているとも知らずに。



fin

20091010
Happybirthday☆gintoki

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