STORY

□紙飛行機。
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“ブン太なんて大っ嫌い”


少し端の折れたテストの答案用紙の裏に殴り書きにされた文字。
あたしは寝転んだまま、視界いっぱいの空にそれを翳す(あ、眩しい)。
屋上を撫ぜて通り過ぎていく風が紙の一部をクシャリと折り曲げた。


「………ばーか」


小さく呟いた声はあっという間に校舎に吸い込まれたはずなのに、胸の中では重く反響している。


仲良さそうにしちゃってさ…。


脳裏にちらつくのは今朝見かけた楽しそうなブン太の姿。
そして一緒にいるのは隣のクラスの女の子。


別にあたしはブン太の恋人なんかじゃない。
ただの、友達。
だからこんな事言う筋合いはないと思うのに、


「…彼女できたなら言いなさいよ!」


――何故か、胸が苦しいんだ。


煮え切らない感情がぐるぐると渦を巻いてあたしに襲い掛かる。


「あー!!もうっ!」


憤りに任せ勢いよく起き上がると、直後に視界の隅で見飽きた赤色が掠めた。









……………あ。









落下防止用の金網の向こうに見える広い広いテニスコート。
1番端のコートでボールを追いかけるのはまさしく丸井ブン太、その人。

彼の姿を認めた途端に心臓が大きな音をたてながら走り始める(我ながら現金…)。
どうやら今は試合中みたいでブン太はコートを走り回っていた。


顔なんて見たくないって思ってた、のに。
意思に反してあたしの瞳は赤い髪を捉えたまま離そうとしない。





ふざけてる時とは全く別で真剣な眼差しのブン太。
鋭い視線がボールを射抜く。


お決まりのボレーが決まった後の得意げな表情。
天才的だろぃ?ってガムを膨らませて。


試合に勝つと、君は嬉しそうに微笑うんだ。
その時の顔はまるで無邪気な子どもみたい。









――ああ、ダメだ。


「あたし、相当アイツに惚れ込んでる…」









力無く座り込むと、すぐ隣には無造作に置かれたテスト用紙が目に映る。
何か言いたげにひらひらと風に揺れている紙切れ。

それを見つめる事数秒、あたしはおもむろに鞄の中のペンケースからペンを1本取り出した。














3分後、あたしの目の前には小さな紙飛行機が一つできあがった。
紙飛行機の翼の部分からは二重線を引かれた“大嫌い”の文字が覗く。


「やっぱり、ね」


自分の気持ちには正直に生きましょう!


改めてペンを握り直すと、二重線の隣に大きく大きく“大好き”の文字を書き入れた。








金網に足を掛けて、いざ。


大空に向けてその紙飛行機を飛び立たせた。















(行け 行け 行け
大好きな君のもとへと!)

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