戦国BASARA
□虎若子の話1
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ずる、と生々しい音を立てて引き抜かれた槍の刃
それに付着した誰のものかさえ分からぬ赤い液体が夕日に照らされ鈍く光る
地面には無数の矢と、刀と、もう動く事のないかつては人間だったもの達
俺の刃に刺さっていたソレが力なく地面に横たわる音を聞いて漸く今回の戦が終わったのだと分かった
嗚呼、何とも愉快な事だ
雄叫びを上げ、決死の覚悟で俺に挑んでくる兵達の姿は真素晴らしいものがある
その覚悟を捻じ伏せ、叩き潰し、粉々に打ち砕くその瞬間
悲痛と絶望に満ち地面に打ち伏せる彼等を見て背筋が粟立つ
力無き者達の命運を左右する己の槍が、何と軽いことか
地面に垂れ流され染み込んでいく血液の、何とも旨いことか
槍の切っ先から流れに流れ、ついに俺の手元まで垂れ流れてきた誰のとも知れぬ血を舌で舐め取る
団子よりも甘く、少し土臭いそれに再び体の中の炎が滾った様な気がした
「なぁ、佐助」
先程からずっと俺の背後で動く気配を見せない忍に視線を向け声を掛ければはっとしたように勢いよく顔を上げたのが分かった
きっと、今の俺は酷く楽しげな表情を浮かべているのだろう
そして、佐助はそんな俺が酷く怖いのだ
そんな佐助の姿でさえも俺には只の興奮剤にかならない
嗚呼、嗚呼、切り伏せて、突き伏せて、その気丈な表情を己の手で歪ます事が出来たなら
何とそれは痛快なことだろうか
「本当は、全て分かっておるのだ」
自分が何処に立てばよいのかも
自分が何をすればよいのかも
民のため、お館様のために、己がしなければ
ならないこと
全て
「何故、俺が動かないか、分かるか?」
「なぁ佐助、」
「俺は、甲斐の民等本当はどうでも良いのだ」
この戦も、戦のない平和な時も
奥州の独眼竜も西海の鬼も日輪の申し子も加賀の風来坊だって本当は、
「全て、どうでもいい事だ」
未だに俺の手を汚すそれを舌で舐め取って口の中で存分に味わう
そんな事をするなと叱る筈の忍はきっと呆然としたまま俺の言葉を聞いているのだろう
「俺はな、佐助」
「お館様がいて、佐助がいて、俺がいる。それだけで良いのだ」
後の事など、俺には知らぬ
「・・・・・・・・・旦那、・・・」
「さぁ戻ろう。お館様が首を長くして待っておられるやもしれんからな」
ぽたり、と水滴を落とす槍を持ち直して
屍の転がる戦場に俺達は背を向けて歩き出した
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