キリリク小説
□ある一日
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「そう…じゃあ今度よろしく。」
そう言って踵をかえし工場から出ようとした時だった。
「カズネ!!」
「……はああああ…」
声の持ち主は振り返らなくても分かる。もう本当にそろそろ一回くらい殴りたい…
「タキ…」
「ハアハア…もう帰るんだろ?俺も帰るところなんだ!!ゼヒッ!!」
あの役立たず…余計なこと言ったな…
「ゲフン…もう本当に偶然!!一緒に飯食って帰ろうぜ!!」
嘘つくんじゃないよ…息あがってるじゃないか…相変わらず嘘つくのが下手な奴…
「悪いけど…」
「キッコさんが新メニューの試食して欲しいって!!」
キッコさんというのは馴染みの食堂のおかみさんだ。僕はキッコさんの世話に結構なっていたのでその言葉は大いに効き目があった。
「…はあ…しょうがない…行くよ。」
タキの顔がぱあっ…と少年みたいに笑みを浮かべるのを見つつ、友達としてならそう嫌いじゃないと思った。同業者だし話は合うし、時々面白いことを言う彼は嫌いじゃない。