突発独創文

□スキライ!?
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「私、貴方のこと大嫌いなの」

 吹き抜ける風は無い、赤く燃える夕焼けも無い、かといって爽快な青空も太陽も無い。普段見慣れた教室の中、突然の呼び出し、そして突然の大嫌い宣言。

 俺の目の前にいるこの女は水神響華。
 女子の学校一と言われる容姿、頭脳、運動神経を持つ完璧少女。
 俺はその女に嫌われていた。

 何故嫌われているのか、何時から嫌われていたのか、特に気にはならない。何故なら――






「あぁ、奇遇だな。俺もお前が大嫌いだ」

 俺の名前は火神龍児。
 俺も、水神響華が大嫌いだった。

 それより何故こんな状況になっているのか、それを知るには今朝まで遡らねばならない。













 今日から新学年、新しいクラスに胸膨らませず、別に楽しみでない入学式に出席、今日は憂鬱な一日で終わりそうな予感。


「んぁ? なんだこれ」

 下駄箱を開け手にしたのは一枚の小さな可愛らしい便箋。

『放課後教室で待っていて』

 それだけが手紙の中央にあった。

「あぁ? ラヴレター?」

 なわけ無いか。と心の中でツッコミながらも、更に心の何処かではどんな相手からの手紙か期待している自分がいた。



「ちぃっす、りゅう」

 誰かが突然後ろから声をかけてきた。

「なんだ、奏かよ」
 条件反射で手紙を隠しつつ、少し平静を装って返事を返す。

「なんだとは何よ、それよりあんた、今何隠したの? 見せなさい」
 お前は俺の母親か。こいつに隠し通せる気がしないので素直に見せる事にした。

「あ、あんたこれ! ラヴレターじゃない……ふーんへぇーほぉー」
 何が気に入らないのか、いつになく不機嫌極まりない顔をしている。といより――

「お前の目は節穴か? 節穴だな? 節穴だ。どこの世界に新聞の切り抜き文字でラヴレターを出すテロリストがいるんだよ」

「そう、人は手紙の主をラヴテロリストと呼ぶ」
 上手いこと言った顔をする奏、正直腹がたつ。


 しかしこいつには昔から逆らわない事にしている。

「まぁ良いさ、放課後になればこのラヴテロリストが誰なのか、分かるんだからな」

 ふん、っと鼻を鳴らして踵を返す。
 奏はと言うとにひひっと彼女独特の笑いを浮かべていた。

「けど、ラヴレターじゃ無くてよかった」
「あぁ? 何か言ったか?」
「なぁんも言って無い」

 なんだよ、言いかけたがあえて何も言わない。どうせバカにしたに決まってるからな。

「ねぇ、それよりクラス割り見た?」
「まぁな、自分のクラスだけ見てきた」

 特に他の奴には興味ないからな。

「けどさ、どうせ今年もお前と一緒だろ?」
「うん、残念ながらね」

 こいつとは本当に小さい時から一緒だが、クラスが別になった事は一度たりとも無い。

「ホント、いつになればお前と離れられるんだかな」
「それ、私と早く離れたいって事なのっ!?」
「あぁ? 別にそうはぶへっ」
 こいつは話を最後まで聞くと言うのが出来ない。阿呆の子だからしょうがないか。

「声に出てるわよ!」

 むきぃーと飛びかかってくる奏だが、今度はそう簡単に捕まらない。
 階段での利を生かすため一気に駆け上がる。

「はは、地の利は我にあでッ!」
 突然襲った衝撃と「きゃっ」と言う女子の悲鳴。

「ちょっとりゅう、何してんのよ」

 うむ、これは俺が悪い。奏を挑発するために後ろを向いて駆け上がったのだから。

「すまない、よそ見をしていた。怪我は無いかい?」

 そう言いながら被害者の彼女を見る。

「あっ」
 にやり。そんな効果音が聞こえた気がした。

「あぁん、龍ちゃんから飛び付いてくれる何て今日は良い日だわぁん」
「須藤先輩……」

 こっちを見るや飛び付いて来たのは『須藤愛菜』
 我が高校の生徒会長を務める人物だ。
 かなり美人で、それによって票を得たと言うやからも居るが、そんな事は無く彼女の演説はそこらの政治家より全然良かった。

 とは、口が裂けても言えないが。

「うぅん、龍ちゃん今失礼な事考えたでしょ」

 色っぽい声で囁きながら腕に胸を押し当ててくる須藤先輩に呆れつつ、あしらう為に頭を回転させる。

「そんな訳無いですよ。先輩はいつも美人だなぁって」

 考えてませんけど。こう言わないと機嫌を悪くするので仕方無くだ。


「ありがと龍ちゃん。私も龍ちゃんの事大好きよ」
 も。って何ですか、俺は一言も好きだなんて言って無いんだが。


「んんもおおおお! いつまでくっついてるんですか! 不潔です!」

 顔を真っ赤に染めながら須藤先輩に突っ掛かって行く奏、確かに生徒会長のする行為では無い。

「あら、奏ちゃんは良いの? そっちが空いてるのに」

「え……」
 そんな目で俺を見るな。何を迷う必要がある、いつものお前を見せてやれ。

「じゃ、じゃあ――」
「馬鹿野郎」
 本当に空いた左腕に手を添えてきそうな奏に、振りほどいた右手でそのまま奏の頭をコツンと叩く。その途中右から「あぁん」と言う声が聞こえたがもちろん無視だ。

「じょ、冗談よ」

 そう言ってそっぽ向く奏、これが俗に言うツンデレ、なるものか。

「まぁとりあえず、HRが始まる。そろそろ教室に行こう」

 先輩もな。それだけを言い残し、さっさと自分の教室まで駆けていった。



・・・・・
・・・

 新学年、入学式後に始めに行うのは当然自己紹介。
 全10クラスの割とマンモス校であるこの学園では知らない顔も少なく無い。
 それは俺も例外では無い、現に俺の知っている人間は僅に3人。その内の一人は奏、そして後ろの席でさっきからうるさい笹先輝砂(さささききさ) 女好きな軟派男だ。
 最後にこの学園で知らない者はいないと言われる女。

「初めまして、水神響華です」
 「うひょ〜」と後ろから聞こえたので頭突きをかましておいた。
 何故か水神に睨まれた気がしたが、気のせいだろう。

「お前、彼女を見て何か反応無いのか? 同じクラスになるなんて奇跡だぜ」
 随分安売りな奇跡だな。39人が奇跡を同時に体験できるなんて。

「別に、俺あいつ苦手だし」
 これは本当だ、所謂、生理的に受け付けないと言うタイプの人間らしい。







 とまぁ退屈な入学式に無難終わった自己紹介。止める奏を制して今に至る。
 今思うのは奏の言うことを聞いていれば良かったなど、全ては後の祭り。


「それで、それを言う為に呼び出した訳じゃ無いだろう?」
 ほう――、などと何に感心したのか、彼女は薄ら笑いを浮かべていた。


「実は私、人を大嫌いになるの初めてなの。生理的に受け付けないって言うのね」
「またも奇遇だな、俺も初めて見た時から思ってた」
 ここまでお互いを嫌い合っているのに何処か悪い雰囲気では無い、それは彼女も思っているのか、それなりな表情だ。

「私達、意外と気が合うのかしら」
「全く違う人間を嫌っているんだ、合っているとは言えないな」

 それもそうね――、またも薄ら笑い。正直腹が立つ。

「ねぇ、貴方彼女はいるの?」
 何を言い出すのかと思えば脈絡無しの質問。

「いないよ、16年間な」
「私もよ」
 へぇ――、正直興味ない、思っても口にしないが。

「そんな貴方に一つ提案が有るの」
「提案……? どんな?」

 いつの間にか空いていた窓、いつの間にか落ちている太陽。
 空いた窓からは一陣の風が、赤く燃える光が、教室内に差し込まれた。
 風は彼女の黒く長い髪を艶やかに揺らし、夕陽は彼女の白く美しい肌を愛らしく染めた。







「私が、貴方の彼女になりましょう」











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