03/30の日記

00:55
拍手を下さった皆様へ
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「花見…ですか?」

夕方から雨が降ってきた所為か、春だと言うのに寒さが戻ってきていた。
そんな中、いつものように捜査本部で何台ものモニターを眺めていた竜崎は、
目の前に立つ彼女を訝しげに眺めると、ポツリとそう呟いた。

「はい、花見です」

きっぱりと言い切る彼女に表情に曇りはなく、それどころか強い眼差しを湛えている。

「花見ですか…」

鸚鵡のように繰り返し答える竜崎の声は暗く、首は傾げられたままだった。





話は、然程難しいものではなかった。
いつものようにモニターを眺めていた竜崎を、
これまた彼女がいつものようにその世話を行っていた時の事だった。
警察庁から戻ってきた松田が漏らした「雨が降り出した」の一言、
その一言に、彼女が花見をしたいと騒ぎ出したのだ。
のん気な松田は彼女のそんな言葉にすぐさま賛同したが、
モニターを眺めていた竜崎は、何の反応もしない。
そんな竜崎が気になって、彼女が再び声をかけようとしたところで
先回りをするかのように、ポツリと彼が呟いたのだ。



「…花見ですか」

傷ついたMDのように、同じ言葉を何度も繰り返す竜崎。
その言葉に彼女は何度も頷くと、竜崎にトコトコと近づいていく。
そのまま竜崎の座っていた椅子の側にしゃがみ込むと、
またにっこりと満面の笑みを向けた。



「せっかく桜が咲いているんですよ、お花見しませんか?」































「…皆で、ですよね」

「はい?」

思わず問い返す。

「今、何て言いました竜崎?」

竜崎から聞こえた言葉の意味が分からず、もう一度訊ねると
少しふて腐れたような声で、竜崎が繰り返した。

「だから、…皆でって事ですよね」

はい、と彼女が頷くと竜崎の顔はますます険しくなる。
そんな竜崎の様子に自分の提案が悪かったのかと考えていれば、

「別に、花見が嫌って訳じゃありませんよ」

と竜崎が先回りした。

「花見は初めての体験ですが、別にそれが嫌だという訳ではないんです。
ただ………」

言いかけて、竜崎は急に口を噤んだ。
瞬間、不意に椅子から下りると自分の側にしゃがみ込んでいた
彼女の手を取り、そのまま捜査本部から出て行ってしまう。

何も言わずに歩いていく竜崎に手を捕まれた彼女は、
ただ従うようについていく。
けれど、突然の竜崎の行動に

「竜崎?」

と彼の名を呼ぶ。
それでも竜崎は手を放す素振りは見せず、スタスタと歩みを進めた。







彼女の手を引いたままの竜崎はロビーまで来ると、キョロキョロと辺りを見回した。
けれど、ある筈のものが見つからずその首を傾げた。



「もしかして、…あれを探してるんですか?」

不意に彼女の声がした。
振り返って彼女を見れば、隅の方に立てかけられた傘を指差している。

「よく分かりましたね」
「だって、ロビーに来たという事は外に出るという事でしょう?」

答える彼女に、竜崎は感心したように頷く。
けれど、そんな竜崎に彼女の顔はますます険しくなるばかりで。
そんな彼女の様子に、竜崎は傾げていた首を更に斜めに傾けた。

「何だか不満そうですね」
「不満と言うよりも、竜崎の考えが分かりません」

はっきりと答える彼女に、竜崎は目だけで問う。
そんな竜崎を彼女はジッと見つめていたが、降参したのか息を漏らすと口を開いた。



「花見に行くんですよ」
「はい?」



つい訊ねると、竜崎は何度も頷いた。



「花見に行くんです。…二人だけで」



そう言うと、竜崎は立てかけてあった傘を手にすると、
彼女を引っ張り外に出て行く。



「りゅ、竜崎、何で二人…!?」



問う彼女に竜崎は暫く空を仰ぐと、諦めたように






























「貴女と二人で見たいからに決まってるじゃないですか」

そう呟き、彼女の手を取り雨の街へと歩き出した。



終。

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