03/23の日記

01:23
拍手を下さった皆様へ
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もう少し、傍で見ていたいと思った。

























「L…じゃなかった、竜崎。今日の夕食、何か食べたいものはありま、す…か?」

そう問いながら出てきた私は、あまりにも見慣れない光景に思わず言葉を詰まらせた。



デスクトップに向かったまま、多数のモニターを眺める竜崎の姿。



これは、いつもの事だ。
いつもと違うのは、その肩が上下しているという事。
後ろから見ただけでははっきりとは分からないけれど、
確かに竜崎の肩は僅かだけれど上下している。

そろそろと足音を忍ばせて近づいてみる。
手にしていたトレイは竜崎から離れたテーブルの上に置いて、
そっとその顔を覗き込んで見た。










「…寝てる」










確かに閉じられた瞳。
すぅすぅと微かな寝息をたてながら、竜崎は器用にも
膝を抱えたあの体勢のまま、椅子の上で眠っていた。

「…竜崎?」

そっと彼の名を呟いてみる。
…反応は無い。

「…りゅーざき?」

今度は、そっと耳元で囁いてみる。
それでも反応は見られなかった。



すぅすぅと、規則正しい寝息が聞こえる。
微かに上下する肩。
口元に運ばれた親指。

目を閉じた彼からは、いつもの何を考えているのか分からない
飄々とした感じはなく、それどころか、幼ささえ感じられる。

ジッと覗き込むように竜崎の顔を見つめる。
時折寄せられる眉が苦しそうで、思わず眉間に指を伸ばしかけて慌てて手を引いた。
暫く苦しそうな表情を浮かべていたかと思うと、今度は反対に笑顔が浮かぶ。
百面相にも似た竜崎の表情。
それがあまりに可愛くて。



「…竜崎、可愛い」



そう呟いた。






























瞬間、体が強張ったかのように動かなくなる。
違う。体の自由を奪われる。
何が起きたのか分からなくて、目を瞬かせれば。
漸く、自分の体が竜崎の腕の中にある事に気が付いた。

「りゅ、竜崎!?」

置かれている状況に頭がついていかず、何とか彼の名前だけを呼べば、

「はい?」

と、何と言う訳でもなく竜崎が返事をする。

「え、えっと、これは、…どういう状況なんでしょうか?」

間の抜けた問い。
けれど、それしか問う事が出来なくて、どうにか口から紡ぎ出せば。
耳のすぐ側で、竜崎の声が響いた。










「あまりに貴女が可愛い事をするものですから。
つい、抱き締めたくなりました」










一瞬にして、顔が炎のように熱くなる。
耳元で聞こえた声は、あまりに低く。
けれど、今までに聞いたどんな声よりも甘いもので。
私は思わず、叫んでしまう。

「うるさいですよ、叫ばないで下さい」
「じゃ、じゃあ、この腕を放して下さいっ!」
「嫌ですよ、勿体無い」
「も、勿体無いって…」
「勿体無いじゃありませんか、せっかくこうして腕の中において置けるのに」
「腕の中とか言わないで下さいーーーーーーーーーー」

竜崎の容赦ない口撃に、半泣きになりそうになる。
それでも止める事を知らない竜崎は「嫌です」としか言葉を返す事しかしなかった。
そんな竜崎の態度に私は慌てる事しか出来なくて。

だから。





だから、





彼のあの眠りが―――タヌキ寝入りだったなんて。





騙されていただなんて。





策略だったなんて。





気づく事は出来なかった。



終。



☆コメント☆
[アルテ] 03-25 04:49 削除
こういうのを
『むねきゅん』
と、
言うのですね(´ω`)

[映] 03-25 20:57 削除
アルテ様w

コメント有難うございます☆
胸キュンって言ってもらえて嬉しいです〜。
これからもキュンとしてもらえるように頑張ります!

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