君と私の境界線
□第二話 頑張りすぎの君
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放課後、帰宅部たちがいなくなった校舎は、どことなく寂しい。
帰宅部でありながら美術部にお邪魔している宇為は、パレット片手に筆を滑らせる法子の横顔に、今日の出来事を話した。
「臨時生徒会役員?」
「うん、そう」
目を丸くする法子に、宇為はコクりと頷いた。
「なんでまた?」
「秋山くんに頼まれたの。引き継ぎでごちゃごちゃらしいのよ」
「秋山ねぇ」
ふうん、と鼻で返事をし、再びキャンバスに向かう法子は意味深に頷いていた。
なによぅ。
「有力候補がいなくなって、言わば繰り上がりみたいなもんじゃない。秋山って」
「繰り上がりって…」
相変わらずの毒舌だ。
でも法子は、単刀直入に事実を述べただけなのだ。
生徒会選挙で、会長に立候補したのは三名。
うち、最有力であった宇為と伊川くんは、事情が事情なだけに選挙演説に参加できなかったのだ。
そして、残った秋山くんは必然的に会長に当選した。
羨ましい限りである。
「大体、会長のくせに部外者の宇為に頼むなんてどういうつもりよ?力量はたかが知れたもんね」
「そうだよね」
小馬鹿にするように笑う法子に、宇為は同調した。
自分ならしない。
意地とプライドにかけても、一人でやりきる自信がある。
「一応、引き受けたけど。臨時生徒会役員じゃあ、あんまり内申にインパクトがないのよねー」
「策士よね。あんたも」
ふふ、と笑うと法子は肩をすくめて見せた。
白いキャンバスには柔らかな色合いが広がる。
放課後、一人黙々と絵を描き続ける法子は、コンクールで賞を総なめにする実力者だ。
本人は、あまり興味は無さそうだが。
部長も名ばかりで、専用のアトリエを貰うためだと自ら豪語し、仕事を全て副部長に押し付けている。
それでも、誰も文句一つ言わない。
それは、法子の絵を誰もが認めているからだ。
キャンバスに広がる独特の世界が、見る者を引き付けてやまないから。
だから、宇為は法子の絵が好きだ。
世界が一つではないと教えてくれたから。
自分の生きる世界が、ちっぽけなものだと知らせてくれたから。