その他版権小説

□戯言×めだか箱
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箱庭学園。

その地下への入り口には要るべきはずである門番の姿がなく、
代わりに居るはずのない一人の男が立っていた。

その男の身長はかなり高めで体は細身。

そして手足の長さが異常に長く、まるで動く針金細工ようだ。

「・・・・・・うふふ。微かだけど感じる」

針金細工は嬉しそうに笑うと、スーツの懐からグロテクスな大きな鋏を取り出し、シャキンと一回唸らせた。

「・・・・・・今度は妹が欲しいなあ。それも萌え記号がいっぱい付いた妹だったらいいなあ。
うふふ、そりゃあもちろん弟だって守備範囲だけど、比率的にもうそろそろ妹がいてもいいと思うんだよね」

針金細工はぶつぶつと独り呟きながら、どんどん地下へと進んで行く。

止める者は誰もいない。

たとえ居たとしても彼を止めることはできないだろう。

男の名前は零崎双識。

泣く子も殺す、生粋の殺人鬼集団、零崎一賊の長兄である。


***


宗像形。彼は言う。

「今日はとてもいい天気だ。だから殺す」

宗像形。彼は言う。

「昼ごはんがおいしかった。だから殺す」

宗像形。彼は言う。

「昨日の夜はいい夢を見た。だから殺す」

宗像形。彼は言う。

「楽しみにしていた映画の封切りが近い。だから殺す」

宗像形。彼は言う。

「携帯電話の電池が切れそうだ。だから殺す」

宗像形。彼は言う。

「特に何もない。だから殺す」

宗像形。彼は言う。

「女子をかばって前に出るなんてきみはきっと優しい子なんだね。
とても仲良くなれそうな気がするよ。だから殺す」

人吉善吉。彼は言った。

「やってみろ限界野郎。
俺は殺されたくらいじゃ死なねえよ!」


シャキン――


その時、鉄と鉄が擦り合う清らかな音が響いた。

「――うふふ。楽しそうだね。
だけどちょっとだけ待ってくれないかい?確かめたいことがあるんだ」

「・・・・・・!?」

宗像と善吉が振り向くと、自分達を悠然と眺めているひょろ長い男の姿があった。

「何なんだあんたは!あんたも十三組の十三人か!?」

「いやいや、私はただの通りすがりの日本紳士だよ」

男は善吉のいきり立つ声にそう答えると、今度は宗像の方に視線を向けた。

「私は零崎双識。気兼なくお兄ちゃんと呼んでくれたまえ。
いや、でも君の風貌なら兄上様でも兄君様でも――」

「零崎さん、僕に用でもあるんですか?」

宗像は双識の言葉を拒絶のように遮断した。

彼の中の防衛本能が働いたのかもしれない。性的な意味で。

しかし双識は気を悪くするどころかますますその口端を上げていく。

「うふふ。これはすまない。可愛いい弟が増えると思ってつい先走りをしてしまったよ」

双識は真っ直ぐと宗像の目を見据えた。

「宗像くん、私の弟にならないかい?」

「・・・・・・・・」

その場にいた全員が「変態だ・・・・・・!!」と、心の中で叫び、宗像はギロッと双識を怪訝そうに睨みつけた。

「・・・・・・生理的に受け付けない。だから殺す」

宗像は刀を強く握った。
それでも双識は笑みを崩さない。

「それでいい。それでこそ“零崎”だ」

眼鏡の奥の目が、今まで以上に宗像を凝視する。

「うふふ、宗像くん。
とにかく人を殺したいだろう?
人を見れば殺すことしか考えられないだろう?
誰彼所構わず殺したいんだろう?
いや――もうたくさんたくさん殺してきたんだろう?」

「・・・・・・それがどうした」

「否定しないんだね。うんうん」

双識は大仰に頷き、

「先程から私が言っている“零崎”とはそういう連中のくくりなんだよ。
君の“零崎”の感覚はまだ薄いが、きっと“零崎”だと思う。
だから私と一緒においで、私達の可愛いい弟くん」

と――宗像の切っ先に手を差し出した。

宗像はただ黙って刀を握っている。
その瞳は思案にふけっているようにも思えた。

「・・・・・・なあ、めだかちゃん。この間に俺たち先に進んだらダメかな・・・・・・?」

「慌てるな善吉。宗像三年とて箱庭学園の一員、事の成り行きを見届けるのも生徒会長の仕事だ」

「まあ、めだかちゃんがそう言うなら・・・・・・」

ぽりぽりと頬を掻く善吉だったが、その眼前がフッと暗くなった。

見ればそれは細い背中と艶やかな長髪。

「真黒さん・・・・・・?」

「いやー、僕は見届けるだけではすみそうにないや」

真黒は振り返ってそう言うと、いつものように人の良さそうな笑顔を浮かべ、双識と宗像の二人に近付いて行った。
そして穏やかな笑顔を絶やすことなく口を開いた。

「・・・・・・双識さん、でしたっけ?申し訳ないが、宗像くんは渡せません」

「なぜ?」

双識は真黒に小首を傾げる。

「だって、宗像くんがいなくなったら私が悲しいもの」

当たり前のように真黒がそう言うと、宗像は金魚のように口をパクパクさせた。

「おっ、お前は何を言っているんだ!!」

「うん?何をそんなに怒ることがあるんだい?
今期の十三人の中じゃ、僕はきみのことが一番好――」

「煩い、黙れ」

宗像は激しく真黒を睨み、刀を振るった。

「ちょ、ストップストップ!」

「お前が真黒。だから殺す!!」

「存在否定が極端過ぎるよ!」

双識は二人の命をかけたじゃれあいに、残念そうに眉を曇らせた。

「・・・・・・どうやら宗像くんは零崎ではないようだ」

「え?どうしてですか?」

善吉は双識の言葉に思わず聞き返した。

「ちゃんとああいう人間がいるのなら、彼は零崎じゃないさ。
私達零崎が徒党を組むのは、寂しいから――だからね」

「寂しいってそんな、大の大人が・・・・・・」

「うふふ、大人を差別しないでくれたまえ。悲しくなるじゃないか」

双識はにっこり笑うと、大鋏を背広の内に仕舞った。

「それでは私は失敬するよ。どうやらここに私の出番はないようだ」

それに――

ちらりと双識は真黒を見遣た。

「変態枠はすでに埋まっているようだしね」


***


「――あれ?」

真黒が気が付くとあの奇っ怪な男の姿はなかった。

宗像もそれに気付いたようで刀を下ろし、辺りを見回す。

「結局・・・・・・何だったんだ?」

「さあねえ。でも、宗像くんがついて行かなくて良かったー」

にへらと笑う真黒に、ふんっと鼻をならし憤慨そうに宗像はそれに答えた。

「・・・・・・子供扱いしないでくれ。
それに僕が何をしようが誰について行こうが、あなたには何一つ関係ないでしょう?」

「暗器を教えたのは僕なのに冷たいなー」

「ならばそこで見ているがいい。僕がお前から教わった暗器で人を殺すところを」

言って宗像は善吉を見た。

「それじゃあ善吉くん。始めようか」

「おう」


こうして、零崎双識と宗像形の接触は終わり、人吉善吉との戦いが開再された。


終わり
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