その他版権小説

□キラ対L=勝者は松田
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「夜神くん、ラッキーマンという漫画をご存じですか?」

一切の前フリもなく、竜崎こと世界一の名探偵Lはそう僕に問い掛けた。

こうやって突然脈絡のないことを口走るのはかわいい天然キャラと相場が決まっているものだが、だからと言って、そうは言っても。

こいつはむしろ、その逆だ。

可愛いげのない天才。

突然の言動は、僕がキラかどうかの可能性を上げ下げするテストに過ぎない。

落ち着け。僕。

僕はいつも通り優等生よろしく、模範的な笑顔でLを見遣った。

真っ黒でもさもさしている髪。
瞬きのない真っ黒な瞳。
そしてそれ以上に真っ黒な目の下の縁取り――この無表情でのっぺりとした顔からは、何も読み取れそうにない。

・・・・・・こいつは一体僕に何を言わせようとしているんだ?

解らない。

ラッキーマンとキラの関係。

そもそもラッキーマンって何なんだ?

・・・・・・結論から言えば僕はラッキーマンを知らない。

でもまぁ漫画なんかで僕がキラかどうか解るわけもないか。よし、ここは素直に答えることにしよう。答えに時間をかけすぎる方が問題だ。

「――悪いが、竜崎。ラッキーマンなんて漫画は知らないなぁ。・・・・・・それがどうかしたのか?」

「いえ、なら結構です」

Lは瞬きもせずにそう言うと、僕から目線を外した。

そしてマカロンタワーのマカロンを、まるでジェンガのように下から一つ取るともしゃもしゃと口に含んだ。その悠々としたLの行動は、会話の終了を意味している。

「ちょっと待てよ竜崎」

はい、そうですか。で終わらせる訳にはいかない。自分の知らない謎を、Lだけの心中に残していくのは危険過ぎる。

「竜崎、その漫画がなにかキラと関係しているのか?どんな些細なことでも、キラに関する情報なら共有すべきだろ」

そう僕が少し語気を強くしてLに詰め寄ると。

ちらりと。いや、ぎょろりと。

Lは上目使いで僕を見た。

体育座りの姿勢を崩さず、器用に黒目だけを動かす式様美。

「・・・・・・いえ、情報などではないのですが――」

僕の両目に映る自分の姿を見るように、じっと僕の瞳を見つめながらLは言う。

「・・・・・・その漫画によっちゃんというキャラが出てくるんです」

「よっちゃん・・・・・・?」

「はい。世直しマンのよっちゃんです。そのよっちゃんは、腕力で無理矢理宇宙を平和にしようとする独裁者で、よっちゃん編のラスボスです。そしてキラが力で――この場合は腕力ではなく未知数の“何か”ですが、まあ便宜上、力と言う言葉を使用させていただきます。その一方的で絶対的な力、死をもたらす力で悪を独断に裁き、世界を平和にしようとしているキラは、まさによっちゃんの思想そのものです」

「・・・・・・ラッキーマンの作者がキラだとでも言うのか?」

「その可能性はゼロです」

そりゃそうだろう。僕がキラだ。

「なら――何なんだ?」


「キラではなく、よっちゃんと呼ぶことにしたらどうでしょうか」

「は?」

僕は素で聞き返した。
意味が解らない。

「ですから、キラをよっちゃんと呼ぶことにしたらどうかと」

そ、そんな緊迫感のない小学生みたいなあだ名で僕を呼ぼうとしているのか!?ふふふふざけるなああぁぁぁぁ!!

と、怒鳴りたいのを我慢して僕は竜崎に更に問う。

「そんなことをして何になるんだ?」

「精神的な嫌がらせです」

しれっと答えるLは「夜神くん、顔が真っ赤ですよ?」と続けた。

「え?あ、ああ。風邪かな?最近ちょっと熱っぽいんだよ」

ハハハと僕はにこやかに笑って誤魔化すが、心の中は荒れ狂っていた。

・・・・・・くそっ!!よっちゃんは嫌だ!!よっちゃんに恨みはないが、プライドが許せない・・・!!

はっ!?これがLの狙いか。ハハッ、何だ。そういうことか。

僕は一気に心の平穏を取り戻した。

そう、僕がキラでないのなら、通称なんてどんなものでも僕は気にしないはずだ。
つまりここでよっちゃん呼びに反対したら、キラ濃厚ってわけか――だからと言って、よっちゃん呼びに賛成しても、反対したらキラだと思われるから賛成した、と取られるかもしれない。

どちらを取っても、キラである可能性が上がる・・・・・・。

なら。

僕は素直に反対しよう。この勝負、勝ってみせる・・・・・・!!

「――何を馬鹿なことを言っているんだ。そんな、漫画のキャラの名前で呼ぶなんて、殺された人達に不謹慎だろ」

もしも僕がキラでないのならこう言うだろうセリフを、僕はもっともらしく言った。

「それもそうですね」

Lが表情を変えることなく答える。

よし!これで改名の話は流れたぞ!!

僕がニヤリと心の中で笑うと、横で黙っていた父さんが口を開いた。

「・・・・・・私も竜崎の意見には賛成だ」

何でやねん!

・・・・・・思わず大阪弁が出てしまった。

「と、父さん。どうしたんだよ、急に・・・・・・」

父さんは深いため息をつきながら、

「最近の若いもんはニートだのフリーターだの、カタカナで上っ面だけかっこいい雰囲気を出してる肩書きなんぞで社会的地位をくくるから向上心の低下が進むんだ・・・!!キラだってかっこよくKI・RAと呼ばれるから調子づいているんだ。字面が間抜けな呼び方になれば、キラも少しは冷静になって、自分のしている行いにも冷めるんじゃないか?」

黙れっ!団魂風情がっ!!

「夜神くん。歯ぎしりをしていますけど大丈夫ですか?」

「え?あ、ああ。最近ちょっと噛み合わせが悪いんだよ」

ハハハと僕はにこやかに笑って誤魔化すが、心の中では父に往復ビンタを食らわせていた。

「只今帰りました〜」

そこへ松田さんが部屋に戻ってきた。
いやにご機嫌そうだ。これは話を流す好機かもしれない。

「松田さん、何をそんなに嬉しそうなんです?」

僕は笑顔で話し掛けた。

あ、解ります?とエヘへとにやける松田さん。「実はミサミサの新しいCMが決まったんですよ」

「へー、それは――「松田さん、ラッキーマンって知っていますか?」

僕の言葉を遮るように、Lが割って入った。
流してくれる気はないらしい。

「ラッキーマン?懐かしいなぁ〜。もちろん知ってますよ。当時ジャンプを読んでいましたから。でもそれがどうかしたんですか?」

松田は疑問の目をこちらに向けた。

よし。Lが話を流さないのなら、あえて話して松田を味方につけてやる。

「実はその漫画に出てくるよっちゃんが、キラと似ているからこれからキラのことをよっちゃんって呼ぶって竜崎が言うんですよ?まったく、緊張のかけらもない。松田さんからも何か言ってやってくださいよ」

「ハハハッ。確かによっちゃんじゃあ緊張感湧かないねぇ。竜崎、よっちゃんはやめた方がいいよ」

松田は笑いながら手を左右に振った。

よしいいぞ松田!たまには役立つじゃないか!!

「やっぱりキラはキラのまま――「よっちゃんより世直しマン呼びの方がかっこいいんじゃないかなー」

「それもそうですね。じゃあキラは世直しマンと呼ぶ方向でいきましょう」

「松田あああぁぁぁぁぁ!!!!!!馬鹿野郎おおぉぉぉぉ!!!!!!」

僕は松田に向かって咆哮した。




その月を見て、

――この反応、夜神月がキラである可能性99.9%

と、Lは静かにそう思った。




おしまい

→あとがき(言い訳)
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