その他版権小説

□そして妖精は彼を生かす
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救済よりも罰を。

***

フェアリーの羽音は、透き通るような鈴の音に似ている。
心奪われる、凛とした甘い響きだ。

しかし、

「あーひまだー。どっかに帝国の奴らいねーかなー。
こうさー、パーっとぶっ殺しまくって腸でも吹っ飛ばすとこでも見てねーと、こんな糞つまんねー旅やってらんねえっての」

と、口の利き方は如何せん汚いようで。
対し、フェアリーの契約者――レオナールは真面目で礼儀正しい青年であった。

「帝国の者であれ同じ人間です。私は、やみくもに殺し合うのではなく、お互いにもっと話し合いをするべきだと思いますよ」

レオナールはフェアリーの意見に困ったように微笑み、頭の中にある映像を思い浮かべた。
それは、カイムが振るう矛先。
満たされぬうずきを掻き消すように、帝国である人間全ての息の根を絶やそうとするカイム。

・・・・・・戦う意志を無くした者すら殺していくカイムを、止める術はないものだろうか。
それとも――止めるべきこと自体が間違いなのだろうか。

「きゃははは!」

脈絡もなくフェアリーが笑う。
否、レオナールの契約者であるフェアリーにとって、レオナールの思考は筒抜けであるが故の反応だった。

「きゃははは!間違ってる?間違ってない?間違ってる?カイムは間違ってないさ、お前と違うだけで。
つーか、俺から言わせてもらえば、間違ってるのはお前の方だぜ?レオナール」

「私が・・・・・・間違っている?」

契約により視力を失ったレオナールであったが、フェアリーの気配と声を頼りに頭をもたげた。
フェアリーはそんなレオナールの戸惑いを見下ろし、渦を産み出すようにぐるぐると旋回する。

「ホンッット、うっぜー!良い人ぶんのは寄せよレオナール。
帝国に弟三人殺されたんだろ?帝国が憎いんだろ?殺したいんだろ?この世に生を受けたことを後悔させるぐらいなぶってなぶってなぶり殺したいんだろ?そう思うのがお前ら人間なんだろ?
ひはははは!
目を刳り貫いて、鼻と耳と唇を削ぎ落として、舌を切って、一個一個咀嚼させてやるのはどうだあ?
ケツから口にロッドぶっこんで、ひいひいあんあん言わせてやるのはどうだあ?
腹かっさばいて、ぐちゃぐちゃに内臓を掻き回すのはどうだあ?
ああ、楽しいなあレオナール。そうだろう?
正直になれよ。・・・・・・カイムみたいに、きゃははははははっ!」

「そっ、そんなことは思っていません」

確かに弟三人は帝国に殺されたが、恨みは真っ直ぐに帝国には向かわない。
なぜなら、

「ああそっか。弟は帝国じゃなくて、自分が殺したようなもんだもんなあ?帝国を恨むなんて、筋違いだもんなあ?
弟達が、おにいちゃ〜んたすけて〜って泣き叫んでる時、おにいちゃんは裏の林でナニをやってたのかなあ?」

「・・・・・・っああ!!」

レオナールはびくっと体を大きく揺らし、両手で顔を押さえた。

「言うなっ、言わないでくれ!」

「あははっ!なんで?チンコいじって息荒くして射精してましたって!弟達の墓の前で言ってきたら?」

フェアリーは耳元できんきん叫ぶ。その声だけでも十分こそばゆいのに、細かく振動している羽も、レオナールの耳をカリカリと掻いて刺激する。

「わ、私は、」

「それもオカズは年端もいかない男の子!
あーたーまーだーいーじょーおーぶーでーすーかー?」

誰にも触れて欲しくない恥部。
少年にしか欲情できない自分。
だらしのない下半身。
少年の柔らかな肌を思い浮かべながら、淫らな情に耽る。
こんなことはもう止めなくては。
思うのに。
止められない。
現実。
そして、弟達が殺された。真実。
私は、汚い。

「そうだ。お前は汚い臭い性欲のかたまり、汚点だらけの屑だ!あーもー死ねば?弟達に悪いと思ってんなら死んじゃえばあ?」

レオナールが死ねないことを知っていながら、フェアリーは煽る。それがフェアリーにとってのご馳走になるからだ。
レオナールから溢れだしてくる自責の念は、最低にして最高に甘い。
――病み付きになるほどに。
フェアリーはレオナールの耳元から、閉じられた瞼に移動した。
震えながら、音もなく涙を流すレオナール。
フェアリーはその涙を無視し、小さな舌で、チロリと瞼の皮を舐めた。

「死ぬのは怖い。
だからと言って、何の報いも受けずにのうのうと生きるのは辛いってか?
人間ってのは都合良く自分に甘い下等生物だよなあ。
でもお前、誰かに罰してもらいたくっても、無理じゃね?
だって、誰にも言えねーだろ?オナってる間に弟達が殺されたことで悔やんでる、なんて。・・・・・・なあ?誰にも言えねーよなあああ?」

レオナールは、涙を垂れ流したままこくこくと頷いた。
その姿は、小さな子供のそれだった。

「だけど安心しろ。俺はお前の味方だ。
俺だけがお前の味方だ。
お前の罪を責められるのは俺だけ。
罰することができるのは俺だけ。
お前の糞みてえな人生で唯一の美点は俺だけ。
俺だけが、お前を救わない」

フェアリーは怖いほど優しげな口調で言う。
レオナールは、すがるように見えない両目を開けた。
そこには、終わりのない暗闇だけが広がっていた。

それでいい。
レオナールは思う。
自分は、救われるべき人間ではないのだから。


終わり

あとがき


まだクリアしてない上、記憶で書いたからいろいろ違うと思います(泡)
フェアリーのしゃべり方とか完全に捏造\(^o^)/
あと本当はフェアリー攻めのエロありにしたかったけど、自重しました(泡泡)
もうフェアリーはレオナールを言葉攻めしまくっていれば良いよ!
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