創作

□片割れ片想い
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俺の左足が片割れの右目を潰した――らしい。

記憶にない。
故意でもない。
しかし事実だ。

母体の中での傷害事件。

俺は片割れに申し訳ないと、確かに謝罪の気持ちを持っている。
だけど、罪悪の気持ちを持ってはいない。

俺は自分の意識が関与していない偶然の事象に罪を感じることができるほどに、良い奴ではなかったのだ。その事実気付いた時は、軽くショックだった。
自分が自分で思っている以上に優しくない人間という事実。
まあ、気付いた所でどうしようもないが。

その代わり、俺の片割れは優しい。一度として俺を責めたことがない。

――もしかしたら、そのおかげで俺は罪の意識を感じないでいられるのかもしれない。

右目に眼帯をつけている俺の大切な片割れ。

『俺が働いて金を稼げるようになったら、義眼をお前に買うよ』

『作り物なんていらないわ』

片割れには片割れの考えがあり、それはその声色と同じように悲しいことなのだ。

悲しいことから片割れを守りたい。

目のことや双子だから妹だからとか関係なく、ただ一人の人間として。

恋として、愛として。

片割れを守りたい。

守る?

傷付けたのは俺なのに?

「自己陶酔はお止めになって。お姉さま」

片割れの声が聴こえる。

「恋に恋しているだけ。愛を愛しているだけ。対象は私ではないわ。それこそがお姉さまの罪よ」

片割れの姿が見える。
同じ顔。
なのに、違う顔。

「お前の右目に作り物をはめられないのなら、俺の気持ちを入れればいい。俺のお前を想う気持ちは本物なんだ」

片割れは眼帯を取った。
濁った右目は何も映してはいない。

「ここには真実だけしか入らないの。真実は痛いの。ちくちくするの。それをぎゅうぎゅうに埋め込むの」

「どうして」

「私は痛くても、本物が欲しい」

片割れは続ける。

「お姉さまの気持ちは作り物。だからダメ」

そして黙って笑った。

何を言っても俺の言葉は通じない。
信じてもらえない。

俺の言葉だけではない。

世界中のどんな言葉で片割れに言い寄っても、その真っ直ぐに濁った白い右目に遮断されてしまうのだ。

なら。

「本物をやるよ」

俺は自分の右目に指を潜り込ませた。

柔らかい固まり。
鋭い痛み。

ブチブチブチと、何かが切れる音がして、俺の視界は左に片寄った。

「これなら、本物だ」

「――ええ」

片割れは俺の右目を受け取って言った。

「これは、本物」

同じ顔になった俺たちは
声を上げて笑った。

血と涙が口に入り、しょっぱかった。

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