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□狂え狂えと君ハ言フ
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君と僕の、夢を見よう。
***
それじゃあ行ってくるねと友情は言い、俺はああとかうんとか適当に返事をする。立ち上がって見送っているのに、床ばかり見ながら。
「あ、そうだ」
「っ、なんだガル!?」
まるで待てを解放された犬のよう。俺は勢いよく顔を上げて答える。
だけど友情は、「夕飯はどうなるか解らないから、先に食べてていいからね」
のんびりと微笑み、そう優しく告げるだけ。
「・・・・・・ガル」
そんな優しさなんて俺はいらない。
言えない。
どこにも行かないで。側にいてよ。
言えるわけがない。
重たい奴とか、面倒臭い奴とか、思われたくない。
「・・・・・・気を付けて行ってこいガル」
「うん、ありがと」
友情のやわらかい髪がひるがえり、ドアが閉まる。
俺一人、残したまま。
***
「まーたお前は嘘を吐いて出てきたのか」
一匹狼マンと別れ、友情が向かった先はビクトリーマンション――勝利の住んでいるマンションであった。
「ははは、別にいーじゃない。そのおかげで、こうして可愛い弟と二人っきりになれるんだしさ」
憎まれ口を叩きながらも、自分を追い出すことはしないと分かっている友情は、呆れ顔でドアを開けている勝利の脇をすり抜け、部屋の奥へとすいすい進む。
「お邪魔しまーす」
「あっ、おいこら!」
友情の背中を追いかけながら怒鳴るが、もちろん止まってくれるわけもない。
「ったく。・・・・・・なんでこんなしち面倒臭いことやるんだか」
しち面倒臭いこと――
それは、動物アレルギーの友達と遊ぶと嘘を吐いては、一匹狼マンと時々距離を置くこと。
そもそも、一匹狼マンを動物のくくりに入れても良いものかどうか甚だ疑問だが、一匹狼マンは友情マンの言うことはすっかり信じきっているようなので、その点については問題はなかった。
「もー、弟の苦労をそんな一言で片付けないでよー」
勝利のぼやきが聞こえたのか、友情が振り返って反論の意を示し、
「それに、私がこういうことをする理由は、一番最初の時に言ったでしょ?
それとも、忘れちゃった?」
「あー、確か嫉妬させるため・・・・・・だったけか?」
「そう。私だけが嫉妬するだなんて不公平だもの。一匹狼マンにもしっかりきっちり妬いてもらわなくっちゃ」
「でもお前が嫉妬してる奴って、狼の野郎が初めて出会った男のことだろ?そいつのこと憎いって言ってんじゃん。
しかも目下行方不明中だし。
嫉妬する必要なくねーか?」
「甘いよ兄さん」
ちっちっちっと、友情は指を振った。「他の奴のことなんて、どんな感情だろうと持ってはだめなのです。すべて私のものなのです」
「・・・・・・そんなもんかね」
勝利はやれやれと深いため息をつき、ソファに座った。その向かいに、
「ふふふ。今ごろ、あの子犬さんは私の架空の友達に対して嫉妬しているのかなー。わくわくしちゃうや」
言って、友情は心の底の底から、否――むしろ心なんてないように、愉しげに笑いながら座る。
「妬いてもらえるのが前提とはね」
「その程度にはね、好かれているんだよ」
「大した自信だな」
「自虐だよ」
友情は口元だけで器用に笑ってみせた。
「その程度。妬く程度。
この友情マン様を攻略するなら、出かけるのを阻止して四肢を切断、監禁、調教、狂気エンド。そのぐらいにする程度の熱量がなくっちゃ」
「それで幸せになれるのってお前だけじゃん」
「うん」
友情は頷いた。
「そんなことしたって、一匹狼マンは幸せにはなれない。狂えない優しい子だからね」
もしも初めて出会ったあの男がまた眼前に現れ、しかもその上謝ったりでもしてきたら、きっとあの子は許してしまう。
友情は一瞬だけ、眉間にしわを寄せた。
だがまたすぐにいつも通りの穏和な笑みを顔に被せた。
「兄さん、ベット借りるね。なんかすっごく眠たくなってきた」
「ああ。あ、夕飯はどうすんだ?」
「んー」
友情は天井を見つめたまま数秒ほど考えて、
「食べてく」
と、短く答えた。
***
君に会えない日は君に殺される夢を見よう。
ほら、こんなにも君に近付けた。
終わり