裏系はR18でお願いします(´∀`)

□追手内家+努力
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朝。

カーテンの隙間から射し込む日の光で目を覚ます。
薄目を開き、自分の部屋の時計を確認する。

「・・・・・・」

・・・・・・学校がある時より早いってなに。

「・・・・・・夏休みなのに・・・・・」

僕はぼやきながら、眠気に身を委ねようと寝返りを打つ。
その最中、「ん?」と、部屋の隅の布団に目がいった。
端と端を、ビシッと綺麗に合わせて折り畳まれた布団群。その上にはシワのない枕が一つ。
畳んだ人間の心根を表すかのような、丁寧な畳み方だ。
そしてそれは誰か。

「・・・・・・あ」

僕は思い出す。

あいつ、昨日から泊まってるんだった。

「・・・・・・」

僕はベットから這い出、努力が畳んだであろう布団を蹴り飛ばして部屋を出る。わざとではない。
寝起きで体がフラついてしまったのだ。

「ふぁ・・・・・・」

あくびが止まらない。
まだ頭はぼーっとしている。

「・・・・・・眠い」

だが、知り合いが自分の家の中で活動しているかもしれないと思うと――眠れそうにない。

「まあ、あいつのしそうなことは見当がつくけどな・・・・・・」

どうせ泊まらせてもらったお礼にと、ママのお手伝いでもしているのだろう。

ったく。いちいちんなこと気にしなくてもいいのに。他人行儀しやがって。

僕は嘆息しつつ、階段を降り、台所へ向かう。

「努力ちゃん、じゃあこのお皿を並べてくれる?」

「はい!」

ちょうど皿を持った努力がこちらを振り向く瞬間だった。

「あっ、師匠!おはようございます!」

対峙した努力は、フリフリのついた真っ白なエプロンで。

「師匠、そこを退いてください。危ないですよ?」

「・・・・・・危ないのはお前のコスプレ姿だ」

変態呼ばわりされたくないのなら、そのエプロンはこの家以外ではしない方が良いぞ。

とまで言おうとしたが、止めた。
僕の家以外でママのエプロンを身につけることなどないだろう。

「っていうか、それ以前の問題として、よく何の抵抗もなくそんなロリロリなエプロン着れるよな」

努力はよく分からないといった顔で、

「?こすぷれ・・・・・・?ろり・・・・・・?」

と、僕の言葉をたどたどしく繰り返す。
眉間に皺まで寄せている。
どうやら、未知のキーワードだったらしい。

「ううっ、師匠のお言葉を一つも理解できない自分の無知、無学さが恥ずかしいです!今後、こすぷれやろりついて、死ぬ気で勉強致します!」

「そんなもんに命かけんな」

一応止めたものの、心に決意を刻んでいるのか、努力には僕の声が聞こえていないようだった。

「洋ちゃん、おはよう」

「あ、ママおはよう」

努力が皿を両手に持ちながら意識を飛ばしているのを見て、ママは笑った。
ママはいつでも機嫌が良いが、今朝はことさら良いように思えた。
それは、努力のせいか。

「努力の奴、手伝うって言ってきたんだろ?断わらなかったの?」

「ええ」

にこにこと答えるママ。

意外だ。
努力が手伝いを申し出るのは予測がつくが、ママはてっきり断わるとばかり思っていた。

「断わる理由なんて、ないじゃない」

普通、ゆっくりしててね、とか言うもんじゃないか?

ママは柔らかく目を細め、意識を飛ばしている努力を見つめる。

「そうそう、あんまりにも似合うものだから、あのエプロン、努力ちゃんにプレゼントしちゃった」

「・・・・・・」

・・・・・・もしもの時は、他人のフリをしよう。

***

テーブルで二人が用意してくれた朝食を三人で食べる。
パパはいない。明後日締め切りの仕事を抱えているとのことで、書斎に篭ったままだった。

「――洋ちゃんと努力ちゃんは、二人で夏祭りに行くんでしょう?」

最初に口を開いたのは、ママだった。

「はい!行きます」

「いや、行かないよ」

僕と努力は、同時に正反対のことを答えていた。

「え、行かないんですか?」

「約束した覚えはないぞ」

僕は、もう一度言う。

「僕は行かない。男二人で夏祭りなんてみじめ過ぎる」

みっちゃんを誘ったけど、ついてなさを発揮して玉砕したことを思い出し、僕は遠い目をする。

「そう・・・・・・」ママは少し、困った顔。

「じゃあ、ママと二人で行く?」

「もっとみじめだよ!」

「なら良かった。ママはパパと二人っきりで夏祭りに行く予定だったから」

実の息子を邪魔者呼ばわりときた。
まあいいけど。

「ってことはさ、パパ、小説書き終わったの?」

ママは笑顔で首を振る。

「夏祭りに行けば、題材のインスピレーションが湧くかもしれないって」

「明後日締め切りなのに、まだ題材の段階かよ!」

「もう洋ちゃん!お食事中は怒鳴らないの!」

怒られてしまった。

「めっ!」

それも子供のように!

「洋ちゃんも少しは努力ちゃんを見習いなさい」

言って、ママは努力に顔を向ける。
努力は急に話を振られたことで、パンをのどに詰まらせ、胸をドンドン叩いていた。

「げほっ、ごほっ!・・・・・・せっかく誉めていただけたのに、情けない所をお見せしてしまって申し訳ありません!」

「情けなくなんてないわ。情けないのはうちの洋ちゃんだから安心して」

「僕何もしてないんだけど」

ママは穏やかな笑顔で頷く。

「存在しているだけで情けないのかよ!」

「ううっ・・・・・・!」

そしてお前はなぜ泣く努力。

「ううっ、さすが師匠のママさんです。私のみっともない姿を、英邁なご子息を卑下してまでフォローをしてくださるとは・・・・・・!!」

「お前には一体何がどうなってその目ん玉に映ってるのか疑問で仕方がないよ」

「本当、どうして洋ちゃんなんかを師匠として慕えるのか不思議だわ」

「なんかとはなんだよ」

「まったく、洋ちゃんの親の顔が見てみたいわ」

「自分だろうが!」

「・・・・・・」

なぜ黙る。
なぜ顔を背ける。

「この息のぴったりよう!お二人は、本当に仲の良いすばらしいご家族ですね!」

ぱんっと、両手を合わせ、努力がまとめる。

「今しがた拾い子疑惑が浮上してたの見てただろうが!」

「血の繋がりだけが家族の在り方じゃあないのよ洋一くん」

「呼び方が他人行儀になってるし!」

ママは僕を無視し、だからねと、努力に向き直る。

「ママは、努力ちゃんのことも家族の一員だと思っているわ」

そう告げられ、努力は照れたように、恥じらうように、もどかしく微笑む。

「どうしたんだ、そうぞうしい」

そこに現れたのは、流れ的に必要ないパパだった。

「パパさん、おはようございます」

律儀に立ち上がり、お辞儀をする努力。

「ああ、おはよう努力くん」

あくびをしながら答えるパパ。
口元にはよだれのあと。

「・・・・・・パパ、今まで書斎で何してたの」

ジト目で訊いた。

「寝てたに決まってるだろ」

お腹をぼりぼり掻きながら、しれっと答える。
嘘も誤魔化しもない。
悪いことだとは思っていない証しだ。
たちが悪い。

それからパパは、ママの隣に座り、上体を横に倒した。いわゆる膝枕だ。

「マーマ、おはよう」

「おはようパーパ」

うぜえ。

「・・・・・・はあ。僕は父親の職業を訊かれる度、ヒモと書いて愛されニートと答えなきゃならないのか」

「何を言っている。私は小説家だ」

パパはママに頭を撫でてもらいながら、キリッと言いった。言い切った。

「・・・・・・ごちそうさま」

もう勝手にしてくれ。

僕は不毛な受け答えが面倒臭くなって、立ち上がった。

「私も、ごちそうさまでした」

努力はきちんと手を合わせ、頭を下ろした。
いただきますの時もそうだった。
すれていない努力は、世間からずれている。
そんなことを思った。

「はい、ごちそうさまでした」

ママは片づけを始めるため、「ほら、パパ、起きて」と、パパに呼びかける。

それを努力が制止し、

「私がやります!」

と、手早く空いた皿を集め始めた。

「ありがとう努力ちゃん」

ママはやっぱり、断わらなかった。

『ママは、努力ちゃんのことも家族の一員だと思っているわ』

ママの中で、努力はお客さんではないということか。
だが努力は?
僕は台所に立つ努力に言う。

「家の手伝いしてもらって、悪いな」

「いいえ。私がしたいからしているだけです。少しでもお役に立てたら本望です」

努力は笑顔で答える。
それは、泊まらせてもらっている遠慮という後ろめたさからくる笑顔ではなかった。
気を使ってるわけでも、気を回してるわけでもなく。
努力はママが好きだから、ママの負担を軽くしたい、
そのために手伝いたい。

そんな、笑顔だった。

「・・・・・・ちっ」

僕は自室に戻り、蹴り飛ばした布団を畳み直す。
努力のように綺麗にはできなかったけれど。
仕方がない。で済ますしかない。
想いの邪魔をするよりはましだろう。

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