裏系はR18でお願いします(´∀`)

□神さまの下僕
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ボクは、神さまに気付いてもらいたくて大声で泣きました。

助けてください。
助けてください。

黒い服を着た知らない人達が、ボクの家の中をどしどしと歩き回っていて怖いです。
お父さんとお母さんはどんなに揺らしても起きてくれなくて怖いです。

一体何があったの?
ボクはどうすればいいの?

胸が、誰かに押し潰されているようにぎゅうぎゅう痛くって、上手く呼吸ができません。
苦しいです。
苦しい。
この家の中で、ボク一人だけが間違ってしまっているみたいで。

どうか、

「たす、けて、ひっぐ・・・・・・う、かみ、さまあぁあ・・・・・・!」

「うるさい、泣くな」

突如、氷のように冷えた声が背中を這いました。
明らかに怒りが含まれた成分です。
誰かを怒らせてしまったんだ。
そう思うと心臓が高鳴り、お腹がちくちくしてきました。
そんな状態で泣くのを止められるはずがありません。ボクは、汚く鳴咽を溢しながら振り返りました。

「泣くなと言っているだろうが。私の言うことが聞けないのか?」

黒い人達の頭は天井の近くにあるけれど、その子はボクと同じ床寄りの背丈でした。
でも――ボクと同じ普通の子どもには見えません。
鋭い目つき。
不機嫌そうな口元。
そして、目がくらむような眩い銀髪は、一本一本が宝石のようにキラキラと輝いています。
ボクはそのあまりの神々しさに、神さまが子どもの姿になって現れてくれたのだと思いました。
助けにきてくれたのだと思いました。

「いいか?今すぐその煩い泣き声を止めないと、殺すぞ?」

「っひい!!」

違います。
神さまがこんな怖いことを言うはずがありません。
ボクはパニックになって、更に泣いてしまいました。

「ふむ。私の命令を聞けないとは、どうしてくれよう」

ごめんなさい、そう云いたいけれど、口が上手くまわりません。
ひっく、ひっくと喉を鳴らすことしかできません。

「そうだ。罰として私の下僕として使おう。一人ぼっちの哀れな貴様なら、誰も文句も言うまい」

言って、その子はポケットから何かを取り出しました。
殺される!
ボクは、ボクのことを痛めつける道具を出したのだと思い、血の気が一気にひきました。

「食え」

「・・・・・・え?」

よくよく見れば、それはバナナでした。
・・・・・・なんでバナナ?
それもなぜポケットに?

ボクはなんだかおかしくなって、笑ってしまいました。

「何を笑っている。これは下僕になる証だ。さっさと受け取らんか」

「うん、ありがとう」

「下僕にされるのに礼を言うとは、馬鹿だな貴様は」

言葉の内容とは裏腹に、その子は満足そうに微笑みました。
それから、ボクの胸の名札を覗きこみました。
今日のボクは、幼稚園に行かないのに黒い人達によって制服を着せられていたのです。

「・・・・・・黄桜、か」

「うん」

「うんじゃない、はい、だ」

「はい」

ボクは言われるがままでしました。
もう、この子のことを怖いとは思いませんでした。むしろ、この子と話していると不安を忘れることができました。
一人じゃないことが、自分を保つ支えになったのです。
・・・・・・この子はやっぱり、神さまなのかもしれません。

「黄桜。お前は何も考えず、ただ黙って私に従っていればいい」

「はい!」

その日から、ボクの居場所はお父さんとお母さんの腕の中ではなく、神さまの隣になりました。


***


昼過ぎから降り始めた雨は、帰りのホームルームになった今でも止まずにいた。
教室の中に入りたいとでも言うように、窓ガラスに体当たりを延々と繰り返している。

「天気予報、見といて良かったあ!」

隣から声。
見れば、隣席の洋一も同様、絶えまなく濡れる窓ガラスを見ている。
それから私の視線に気付き、

「黄桜は傘持ってきてあんのか?」

と、小声で話しかけてきた。
私は頷いた。
天気予報が晴れだろうが雨だろうが、私のロッカーには二本の折りたたみ傘が常備されている。

「そっか、なら良かったな」

洋一はにこりと笑う。
彼が上機嫌な理由は、きっと机の上にある便箋と大量の消しカスのせいだろう。

「素敵なラブレターが書けたようですね」

洋一は「にひひ」とはにかみ、頭を掻く。

「天気予報のあとの占いで、今日ラブレターを渡せば上手くいくって言うからさ。いつも以上に張り切って書いたんだ」

「そうですか」

隣席になって早一ヶ月。
洋一のラブレター全敗歴の片鱗を見守ってきたこともあり、

「今度は上手くいくと良いですね」

と、私は心の底からの応援を渡した。

「――きりーつ、礼」

そこで、帰りのホームルームがちょうど終わった。
皆が次々に教室から出、下駄箱に向かう中、私は折りたたみ傘を二本持ち、隣の教室へと歩を進める。

すでに解散したであろう隣の教室はがらんとしていた。
それでも息苦しい雰囲気が漂っているのは、一人残っている生徒の威圧感のせいだろう。

「――遅い」

「申し訳ありません、さっちゃん様」

「五分も待った」

さっちゃん様は手と足を組んだまま、黒板の上の時計を顎で示した。

「もー、クラスが違うのですから、誤差が出るのは仕方がないでしょう?」

「音速で来い」

「体がもげます」

「ミニ四駆のスピードを上げたい時は、パーツを取ったりヤスリで削ったり、できる限り風の抵抗を減らすと聞く」

「遠回しに私の肉もげろって言ってませんか!?」

「ふん」

さっちゃん様は私の言葉を無視し、膝を伸ばすように立ち上がる。
と、銀色の長髪が美しく揺れた。
ハーフである外見だけでなく、内面から溢れる高貴さは、さながら《生きた芸術品》。
私はさっちゃん様の美貌を、密かにそう名付けていたりする。
ちなみに私はと言えば、中学に入ってからさっちゃん様の命令で、前髪を長く伸ばしている。
正直、前が見辛いので切りたいのだが。

「さっちゃん様、もうそろそろ前髪を切っても良いでしょうか?」

私は自身の前髪を摘み、問う。

「というか、何で私は前髪で顔を隠さなければならないのですか?」

「貴様の素顔は規制対象に入るからだ」

まさかの、

「これ、モザイク代わりだったのですか!?」

「前髪で隠さぬ貴様の顔などPG表記すらつけられん」

「保護者同伴でも見せられないって、私の顔はそんなにグロいんですか!?」

ちょっと、いや、かなりショックだ。

「貴様の素顔に堪えられるのは私ぐらいだ。解ったらそのまま伸ばしていろ。みなのためにな」

「・・・・・・さっちゃん様以外には顔面凶器・・・・・・」

「不満か?」

「いえ」

嘘ではない。
さっちゃん様>その他、答えはいつだってシンプルだ。
第一、私の問題はただ単に前が見辛いというだけで、誰かに顔を見せたいわけではない。
一つ路線のずれた会話になっていたことに、はたと気付く。
そして、

「ふん――貴様が素顔を晒せるのは家の中だけだと思っていろ」

と、吐き捨てるように言われ、「はい」と私が答えることでこの話は終わった。
最後はいつもそう。
私の肯定で話は終わる。

「――家、か・・・・・・」

思うことが何もないわけではない。
私の家は、さっちゃん様の家。
両親を亡くし、引き取り手のなかった私を養子にしてくれたのは、父の親友だったさっちゃん様の父親だ。

私がさっちゃん様に逆らえないのはそれが理由だと噂する人もいるけれど。

けれど。


***


「ついてね〜!」

下駄箱につくと、洋一の吠え声が聞こえた。
見れば、広げている傘に大きな穴が開いている。

「くそっ、みっちゃんが行っちまう!こうなりゃダッシュッで・・・・・・!!」

言いながら、壊れた傘を傘立てに突っ込み、守るように鞄を抱きしめる洋一。

「ちょっと待ってください!」

私は急いで洋一に駆け寄った。
洋一は鞄を抱きしめたまま、半身をねじって振り返る。

「何だよ黄桜」

「よければこれを使ってください」

私は二本持っている折りたたみ傘の、一本を差し出した。

「えっ!?」

「二つありますから、どうぞ」

洋一は驚きながらも、二本の折りたたみ傘を交互に見る。
その驚きは、傘を貸す申し出になのか、傘を二本持っていることになのか。私には判断がつかなかった。なので、分かることだけを言った。

「せっかくのラブレターが濡れてしまったら、もったいないじゃないですか」

きつく鞄を抱きしめていた洋一の手が、少し緩んだ気がした。
そして。

「ありがとな」

と洋一は言い、私から折りたたみ傘を受け取った。


***


「・・・・・・貴様は何をしているのだ」

洋一が去ったあと、横で一連のそれを見ていたさっちゃん様が、怪訝な顔で言った。

「好きな人に好きって正直に言える彼を――応援したかったんですよ」

羨ましいという気持ちを、微笑ましいという気持ちに摩り替えて。
達観したフリで、さっちゃん様の隣をキープして。
私はずるい。
だから、真正面からぶつかっていく洋一が、心から凄いと思えた。

「ほう、で?奴の応援のために、私に濡れて帰れと?」

「いいえ」

私は首を振り、手に残っている折りたたみ傘をさっちゃん様に差し出した。
さっちゃん様>その他>自分、答えはいつだってシンプルなのだ。

「私は濡れたって構わないし、濡れて困る物もありませんから」

「・・・・・・ふん」

さっちゃん様は手を微動だにせず、鼻を鳴らした。

「傘を持つのは疲れる。お前が持て」

「私が・・・・・・?」

私は傘を広げ、校舎から出るさっちゃん様の頭上に掲げた。
さっちゃん様が濡れないよう、傘の恩恵を全て捧げて。
もちろん私はずぶぬれになる。

・・・・・・さすがさっちゃん様。ドS、鬼畜、外道っぷりが半端じゃない。

「そうじゃない、貴様も入れ」

「え?」

と言っている間に、ぐいっと体を引っ張られ、俗に言う、

「相合い傘、になってしまいますが?」

「この方が、私の肩が濡れない。貴様は不満か?」

さっちゃん様がそう言うなら、私はこれ以上とやかく言う必要はない。

「はい、わかりました」

私は自然、笑みが浮かぶ。

「さっちゃん様のことを、ドSとか鬼畜とか外道とか、思った時もありましたが――」

「ちょっと待て」

「やっぱり、さっちゃん様は優しいですね」

「死ね」

「何でですか!?」

さっちゃん様は無言。
私たちは、あっと言う間に雨の音に飲まれていった。

やがて、

「・・・・・・貴様が私に『はい』と応えるのは、負い目からだ」

と。
独り言のようにさっちゃん様が呟いた。

「違いますよ」

私は雨の音に負けないように答えた。

「私は、私の意志であなたに従っています」

『黄桜。お前は何も考えず、ただ黙って私に従っていればいい』

一人泣いている私に放った言葉。
あの頃は分からなかったけれど、さっちゃん様なりの慰めだったと今なら分かる。

「私はあの日からずっと、あなたの側にいたいと願い続けています」

「根っからの下僕体質なんだな」

「さっちゃん様限定ですけどね」

わがままも怒った顔も、大好きです。
なんて、伝えることができたら。
できたら?


全てが一瞬で壊れてしまうのなら、私は一生神さまの下僕でいい。
下僕がいい。

私は痛いくらい強く、柄を持つ手に力を込めた。



終わり

あとがき

リクエストはさ黄だったのに→←になってしまってごめんなさい(泡)
でもこの二人なら、きっといつか両想いに気付く!
といいな(*´Д`)
.

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