裏系はR18でお願いします(´∀`)
□一人と一人と一人
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ある一人の少年が、腹を満たすものを探し、ゴミ捨て場をあさっていた。
またある一人の少年が、心を満たすものを探し、おもちゃ箱をあさっていた。
そんな二人が出会い、奇妙な主従関係を結ぶ小さな世界。
私は――その他。
ただの傍観者だ。
***
「救世主の髪は、烏色ですね」
黄桜は顔を下に落としながら言い、再び持っていた鉛筆を動かし始めた。
体育座りをした太股と腹の間には、B4型のスケッチブック。美術の時間、全員に等しく配られた物だ。
そのお揃いのスケッチブックを、私は黄桜と向かい合い、立てた片膝に乗せていた。
友人の顔を描く美術の課題。
黄桜は私を。
私は黄桜を。
提出期限が間近なため、黄桜の家で作業をしていのだが――
「烏か」
私の手は、思わず止まってしまう。
烏は墓場にいて不吉。
烏はゴミ捨て場にいて不潔。
テレビや本で使われる烏の描写なんてそんなものだ。
・・・・・・そんな生き物と同じ色と言われてもな。
しかし、面と向かって悪口を言う性格ではないことは、幼なじみとして知っている。
私は探るように、上目遣いで黄桜を覗いた。
黄桜の顔は前髪で隠れており、表情は分かり難い。
が、口元はにこにことしている。
やはり、悪い意味で言ったわけではないらしい。
「描かないのですか?」
ふと、黄桜が顔を上げた。
前髪の隙間から、色素の薄い瞳が覗く。
「いや、ちょっと烏について考えていた」
へこみはしないが、引っ掛かる程度には気にかかる。
「ああ、私が烏色って言ったからですね」
黄桜は微笑み、しげしげと私を目で撫でた。
「やっぱり似ています」
「やっぱり似ているのか」
「烏の羽根って、艶のある黒色で、とても美しいじゃないですか。光の加減で青みがかかるところも、そっくりですよ」
よくよく考えたら、実物の烏を間近で見たことがなかった。ことに気付く。
「・・・・・・そうか」
烏の色は、綺麗なのか。
私は薄く笑い、長めのポニーテールがそれに合わせ、心地良さそうに揺れるのを感じた。
ゆら、ゆら。
ん?
心なしか、床が振動しているような。
「――そのフラグの元凶を、毛根からごっそり抜き取って、和訳通り尻からはえさせてやろうかっ!」
「――っ!?」
廊下を走る音。
そして、ドアがおもいっきり壁に叩きつけられる音。
衝撃で蝶番が外れてしまったドアは、どっちつかずにぶらぶらしている。
その向こうで。
銀髪の麗人が、殺意のこもった目つきでこちらを睨みつけていた。
「さっちゃん様!」
「・・・・・・さっちゃん」
私と黄桜は、ほぼ同時に名前を呼んだ。
バックコスモス・サミット。
私の腹違いの兄であり、黄桜を溺愛する暴君。
ちなみにパーソナリティは後者が十割。
なので。
「黄桜の尻を狙うやおい男め・・・・・・!」
と、さっちゃんは黄桜を抱きしめ、私を足で蹴り飛ばした。
「救×黄ほのぼのBLなんぞ、私は許さんぞ!」
「許されても困る」
私が好きなのはラマンさん(♀)だ。
嘆息。
「こうなることが嫌だったから、黄桜の家に来たのに」
黄桜と私が話をするとすぐにこれだ。
だから、さっちゃんのいない黄桜の家に内緒で来たのに。
「ん?そういえば、どうやって黄桜の家に私が居ると知ったんだ?」
「ふふん。おはようからおやすみまで、おやすみからおはようまで、私は黄桜の家を網羅している」
「・・・・・・」
身内から犯罪者を出したくないため、私は聞かなかったことにした。
「さっちゃん」
改めて、仕切り直す。
「美術の課題なんだ。私のためにとは言わないが、黄桜のために邪魔はしないでくれ」
「・・・・・・ふむ。黄桜の成績が悪くなっては、確かに困るからな」
さっちゃんは言いながら、顎をさする。
「ならば、私はここでおとなしく本でも読んでいよう」
良かった。
分かってくれたようだ。
と、安堵したのも束の間。
さっちゃんは黄桜に膝枕をしてもらい、どこからか取り出した本を優雅に読み始めた。
・・・・・・こいつは根本的なことが分かっていない。
「・・・・・・そこに居られると、精神的に描きにくいのだが」
「貴様の精神力が貧弱なのは貴様の問題であろう」
膝枕でキリッされても。
私は苦い顔で続ける。
「それに、黄桜にいたっては、スケッチブックを片手で浮かしながら描くなんて肉体的に辛いだろ」
「ふんっ」
さっちゃんは鼻で笑い、
「黄桜、平気だな?」
と、単調な口調で黄桜に訊いた。
最初から答えは決まっているかのように。
「はい」
そして、黄桜は腕をぷるぷるさせて、そう答えた。
「良い子だ」
さっちゃんは満足げに微笑み、黄桜の腹をよしよしと撫でた。
「うっ、く!くすぐったいですよっさっちゃん様」
「こら、身をよじるな。頭が安定しないではないか」
なんかもう帰りたい。
「むっ?物欲しそうな顔で黄桜を見るな!」
「うがっ!」
とんだ言いがかりをつけられたうえ、本を投げつけられた。
くそっ、ハードカバーの分厚いやつだ。
「殺す気か!」
じんじんと痛む顔面を片手で抑え、私はもう片方の手で本を拾った。
タイトルは『完全犯罪・殺人方法』。
「黄桜に言いよる悪い虫を処理する仕方を模索中なのだ」
「リアルに殺す気か!」
私は二回目となる怒声を上げ、わなわなと震えた。
同時に、
「大変!血が出てます!」
と、黄桜が叫んだ。
自分の顔は見えないが、軽く痺れるような痛みが頬にある。
まあ、これぐらないなら、
「かすり傷だ、問題ない」
「ありまくりです!」
「・・・・・・そ、そうか?」
普段おとなしい黄桜が、こうも強気になるのはめずらしい。
私はつい戸惑い、口ごもってしまった。
その隙に、「よいしょ」と黄桜はさっちゃんの頭を床に置き、ティッシュを持って私の元へ。
「動かないでくださいね」
「・・・・・・私を助けたいと思うのなら、放っておいてくれ」
黄桜の肩越しから、床に転がっているさっちゃんが見える。
下唇を有り得ないほど強く噛みしめ、血走った目で私を凝視している。
「はい?何を言っているんですか?」
黄桜はさっちゃんの殺気に気付かず、首を傾げながら私の頬を拭った。
「じゃあ、次は消毒と絆創膏を持ってきますから」
「そこまでしなくていい」
ぱたぱたと、壊れたドアから出ようとしている黄桜を、私は止めようとした。
だが、
「救世主の整った顔に傷がつくなんて、私が嫌なんです」
黄桜に深い意味はなくとも、約一名深読みしてしまう奴がこの場にいる。
ぐさり。
矢のついた黄桜のセリフが、さっちゃんに刺さって。
「あ、もちろん顔だけでなく、救世主のことは中身も大好きですよ?」
ぐさ。
「文武両道。それを得意にするでもなく、黙々と自分を高める姿は憧れてしまいます」
ぐさぐさぐさ。
のたうち回るさっちゃん。
ああ・・・・・・白眼むいてる。
「では、すぐに戻ってきますから」
そんなさっちゃんとは反対に、黄桜は爽やかな笑みを残し、部屋を去って行った。
「きゅぅーせぇーしゅー」
あーあー。何も聞こえない。
「無視をするでないっ!」
さっちゃんはずるずると床を這い、私の正面まで来ると膝立ちになった。
「まさか貴様が恋敵になるとはな」
「なってないっ!」
「ふんっ、ちゃんと聞こえているではないか」
不機嫌そうに、さっちゃんは鼻を鳴らした。
「まったく、どいつもこいつも――私の周りでまともな物は、唯一黄桜だけだ」
唯一。まとも。
私はそこに入っていない。
私は、さっちゃんを嫌っていたから。
何でも手に入って、誰でも言うことを聞いてくれて。
社長の息子という肩書きを笠に、わがままを巻き散らすさっちゃん。
だから私は。
ずっと距離を置き、乾いた目で見下ろしていた。
その背中が一人ぼっちだったことに、気付かずに。
「さっちゃん」
しかし最近は、黄桜を通してさっちゃんのことが少しずつだが解ってきたような気がする。
解りたいとも、思う。
「・・・・・・私だって、これからはちゃんとさっちゃんと向き直ろうと、思っているんだ」
「何!?黄桜に対し宣戦布告か!?」
「違うっ!なぜそうなる!」
「うるさい!貴様なんぞ、家の裏でマンボウが死んでろ!」
目を見開き怒鳴るさっちゃん。
いけない、怒りで我を忘れてる。
なんて、どこぞの姫ねえ様を思い出していても仕方がない。
「・・・・・・私の家の裏は、お前の家の裏でもあるんだが」
「ああっ、しまった!」
私の答えに、さっちゃんはくやしそうに眉をしかめた。
こんな表情をするさっちゃんを、昔は知らなかったと、私は思った。
***
ある一人の少年が、腹を満たすものを探し、ゴミ捨て場をあさっていた。
またある一人の少年が、心を満たすものを探し、おもちゃ箱をあさっていた。
そんな二人が出会い、奇妙な主従関係を結ぶ小さな世界。
私は――その他。
ただの傍観者だった。
でも今は。
終わり
あ
とがき
いただいたリクエストは、さっちゃんと救ちゃんが異母兄弟で、黄桜になつかれた救ちゃんがさっちゃんに殺意を抱かれる的なものだったのですが、異母兄弟設定をもっと生かした話にしたかったorz
さっちゃん達は大好きなので、書いててめちゃめちゃ楽しかったです(*´∀`*)
出ては来ないけど、黄桜の部屋にはさっちゃんが置いていった等身大さっちゃんフィギュアがあったりとか考えてました(泡)
あと、さっちゃんの母親はさっちゃんを産んで死んで、その三年後、父親が再婚+救ちゃん誕生とか。
黄桜は育児放棄されていた子とか。
家の裏でマンボウが死んでろは、GUMitiveを買ったのでつい言わせてしまいました(*´Д`*)
それでは、リクエストありがとうございました!
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