久保時・最遊記小説

□ポ―カフェイス
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『あっ・・・』

久保田の指先が時任のソレをなぞるように触れると、時任はビクッと肩を震わせ小さな悲鳴をあげた。

本人は自分の過剰な反応に気付いていないらしく、ただただ久保田の左右に動かす指先に合わせて切ない吐息をもらす。

久保田はそんな時任の様子を眺めながら、満足そうに口元をゆるめた。

『さ―て、これからどうしよっかな』

『ん、くぼちゃん・・・あんまじらすなよ・・・』

時任は過度による緊張のせいか、黒い瞳は潤み頬は上気している。

久保田はこの色っぽい時任の姿をまだ見ていたいと思ったが、

『そ?じゃあ遠慮なく』

そう言いながらにやりと笑い、時任のソレを強く掴んだ。

『あ!やっぱ待って、くぼちゃ・・・んんっ・・・!!』


時任の制止の言葉は、久保田がソレを一気に引き上げると同時に、声にならない悲鳴へと変わった。


***



「くっそ〜!また負けた〜!!」

「本当時任ってババ抜き弱いよね。これで十敗目だっけ?」

「うっせぇ!今までのはリハ―サルだよ!リハ―サル!」

時任は自分の手に残ったババを放り投げ、リビングの床へと寝っころ返った。

と同時に、「うわっ!目がーっ!目がーっ!」と、手の平で顔を覆い、ムスカばりにじたばたと床でもがき始めた。

多分、天井の蛍光灯を直視してしまったのだろう。

久保田は床を転がる時任を眺めながら、時任の行動は読めるんだか読めないんだか、と、苦笑いをもらした。

「くぼちゃん!何笑ってんだよ!』

『いや、明日はそこんところクイックルワイパ―かけなくても大丈夫だなーって」

「俺のパーカーをバカにすんな!!」

「ん―、感謝してるつもりなんだけど?」

そう、いたずらっぽく笑う久保田に、自分が何を言ったところで無駄だと思った時任は、目をごしごしと擦り、また床にごろりと寝返った。

もちろん今度は目を瞑りながら。

「時任、寝るんなら布団行って寝な?」

あぐらの体勢のまま散らばったトランプを集めながら久保田が時計を見ると、
既に針は深夜の二時を過ぎようとしていた。

いつもの時任なら寝ていてもおかしくない時間なのだが、
時任は久保田の言葉に反発するようにガバッと起き上がり、

「まだ寝ねぇ!勝ち逃げなんて許さないかんな!」

と、人指し指を勢いよく突きつけた。

まるでだだっこのような抗議に、はいはいと久保田はあやすような笑顔で頷き、集めたトランプを器用にきり始めた。

シャッシャッシャッシャッシャッ――

ズレのない均等的な音。

ブレのない機械的な音。

シャッシャッシャッシャッシャッ――

音に従って時任の脳裏に、今日の執行部で行ったババ抜きの光景が浮かび上がった。


***


それはいつもの執行部の日常から始まった。

「なんで毎回毎回僕がパシリをやらされなきゃいけないんですかっ!!」

「あんたはそれしか能がないでしょうが!」

わめく藤原を一喝し、桂木が買い物リストを突きつける。

「そんなことないです!こんなの横暴ですよ!」

そして今日の藤原は、いつもと違う言葉を続けた。

「ここは公平に勝負で決めましょうよ!」

「勝負だぁ?」

藤原の口から思いもよらぬ単語が出てきたので、思わず時任は口を挟んでしまった。

「そうです!勝負です!」

反応を貰えたのが嬉しかったせいか、天敵の時任にもつい笑顔を見せた藤原だったが、その笑顔はすぐに凍りついた。

「・・・おもしれぇ。その勝負とやら俺様がのってやろーじゃねぇか」

「え?あの、何か勘違いしてません?」

拳からバキバキと音を出しながら近付いてくる時任に困惑する藤原。

「まさか藤原がケンカしたいだなんてな。・・・それじゃイくぜ!」

「ち、違っ!!」

ドゴォ!!

勢いよく繰り出された時任の右ストレ―トは、とっさにしゃがみ込んだ藤原には当たらず執行部のドアにめり込んだ。
もしもドアに声を出せることが出来たのなら、きっとひでぶ!と叫んでいたことだろう。

「あーもう!何してんのよあんた達ー!!」

「藤原が避けんのがいけねーんだろーが!」

「避けなきゃ死ぬでしょ完全に!」

へこんだ部分からしゅうしゅうと湯気が立つドアからへっぴり腰で逃げた藤原は、傍観者であった久保田の後ろへと回りこんだ。

「あっ、テメェくぼちゃんから離れろ!」

「嫌ですよーだ!!だいたい勝負=ケンカって、どれだけ野蛮な思考なんですか!――ねぇ?久保田先輩♪」

と、藤原は最後のねぇ久保田先輩♪、の所だけを猫なで声に変え、久保田に話をふった。

突然話をふられた久保田は表情を特に変えるわけでもなく、
「じゃあ何で勝負する気だったの?」

「よくぞ聞いてくれました!」

久保田の問いかけに、藤原は鞄から誇らしげにトランプをじゃじゃ〜んと取り出した。

なんでも藤原のクラスでは今トランプが流行っており、そこでの自分はそこそこ運が良く勝つことも多いと得意気な顔をして説明を始めた。

執行部では底辺の彼も、クラスでは上手くやっているらしい。

だが、自慢話に聞こえなくもないその話し方に苛立った時任は、

「んなまどろっこしいことやってられっか!テメェが買い出しに行きゃあいいだけだろーが!」

と、トランプ勝負を拒否することで藤原に反発した。

「あれぇ時任先輩、負けるのが怖いんですかぁ?」

「んだと!?誰がテメェなんかに負けるってんだ!」

「じゃあ勝負してくれるんですか?」

「ああ!トランプでも何でもやってやろ―じゃね―か!!ほら、テメェらも全員椅子に座れ!」

「・・・・・・ちょっと久保田君。どうにかしてよ、この面倒臭い展開」

「んー。まぁトランプぐらい、いーんでない?二人ともやる気みたいだし」

「あのねぇ」

桂木がため息をついた。
それはあきらめのため息だった。

「解ったわよ。相浦君、松原君、室田君もいいわね?」

「俺は構わないぞ?」

「トランプより花札の方が得意なんデスが仕方ありませんネ」

「それを言うなら、俺は声優さんの札読みCD付き最遊記カルタのが得意だぜ?
で、トランプの何で勝負するんだ?」

相浦の言葉にみんなの体の動きが止まり、脳が一斉に動いた。

八人ででき、初心者もいない、皆がル―ルを知っており、そして店の閉店時間も近いので、すぐに勝ち負けがつき、ドロ―がないもの。



そして弾き出された答えは――ババ抜きだった。


「なんつーか、パッとしねーな―・・・」

「ああ。なんか、アレだよな・・・」

ちびまる子ちゃんのように目の下にたて線が入る執行部メンバ―をよそに、
久保田は一人涼しげな顔でトランプをキリ出した。

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