その他版権小説

□僕の妹がこんなに病んでるわけがない
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【ハンドメイド】
鈴凛

***


スイッチが入ったかのように、唐突に僕は目を覚ました。
見覚えのある天井が、ずっとずっと遠くで停止している。

――ここは、鈴凛のラボ?

そう呟いたつもりが、上手く喉が開かず声が出ない。寝起きだからだろうか。

「アニキ!」

ああ、やっぱり。

どこからか鈴凛の声が聞こえる。

僕は体を起こそうとしたが――

あれ?

ギシギシと節が軋むだけで、ちっとも筋肉の動く気配がない。
一体、どうなっているんだ?

「アニキ、体の具合はどう?」

具合?ああ――きっと僕は鈴凛の新しいメカの失敗のせいで、気絶でもしてしまったのだろう。
この体の不調もそのせいか。

僕は鈴凛の心配そうな声色と台詞で憶測し、納得した。

「アニキ?」

鈴凛、僕なら大丈夫だよ。気にするな。

そう、伝えたかったが、なにせ声が出ない。
今のところ動かせるのは眼球だけのよう。

僕は意思表示として、開かない口の代わりに目玉をぐるぐると回してみた。
なんとも気持ちの悪い意思表示だが、仕方がない。

「・・・・・・あーあ。また失敗か」

ほんの少し間を置いて、鈴凛の残念そうな声が聞こえた。

まあまあ。そう残念がるなよ鈴凛。
成功は失敗の消去法。一歩ずつお前は成功に近付いているよ。

『――鈴凛なら何だって造れるさ』

な?いつもそう言っているだろう?

僕は心の中でしみじみと鈴凛を慰めている、そのとき。

僕と天井の間に、突如見知らぬ女性がにゅうっと現れた。
彼女は歯医者さんのように僕を真上から見下ろし、鋭い視線を遠慮なく僕の皮膚に突き刺してくる。

「・・・・・・」

・・・・・・。

言っておくが、僕は自分の顔の作りに自信はない。
なのでとてつもなく居心地が悪い。
悪いながらも、僕は顔を背けることができないので、ここは一つ開き直って、彼女を観察することにした。。

・・・・・・。

・・・・・・。

しっかりした目、鼻、口の作りで、やつれてはいるがなかなかの美人。

年は二十歳半ばぐらい・・・・・・かな?

以上。報告終了。

・・・・・・我ながら乏しい観察力だ。こりゃあ四葉を馬鹿に出来ないな。

それはさておき。

素朴な疑問。

鈴凛の奴、いつの間にこんな年上の人と知り合いになったんだ?
機械好き同士の交流か何かだろうか?
鈴凛、早く紹介してくれよ。

そんな僕の困惑を置いてきぼりに、彼女は僕を見下ろしながら頭部側に回っていく。

逆さまになった彼女の顔。手が、僕の頬に触れ、そのまま――ゴキィッ!

首の骨が折れたかと思うほどの衝撃と痛み。
彼女は僕の固まっていた首を、力任せに曲げたのだ。

そして新たに広がった景色には、たくさんの僕がいた。

等身大のあやつり人形をドチャドチャと適当に置いたような。
乱雑に散らばる四肢や頭部。
切断面や切り傷の間からは、肉ではなくて、色とりどりの配線や鉄の棒がかいま見える。


何だよこれ。
何だよこれ。
何だよこれ。


パニックになりながらも、不思議なことに僕の鼓動は乱れない。

僕の鼓動は――

ここでふと気付く。

「ごめんね?痛みもインプットしてあるから痛いと思うけど」

キュイイイィィィ。

鈴凛の声にかぶせるように、そんな機械音が聞こえた。
まるで工場だ。
僕の顔が振動でガクガクと揺れる。
世界もブレる。

きっと、頭を切り開かれているのだろう。

そして、僕の頭の中に脳味噌は入っていないのだろう。

「アニキを生き返らすことはできなくても、造れることはきっとできる。そうでしょ?アニキ」


***


スイッチが入ったかのように、唐突に僕は目を覚ました。
見覚えのある天井が、ずっとずっと遠くで停止している。

――ここは、鈴凛のラボ?

そう呟いたつもりが、上手く喉が開かず声が出ない。寝起きだからだろうか。





終わり
→次の妹の話
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