久保時・最遊記小説
□ポ―カフェイス
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――勝負は簡単についた。
「それじゃあ買い出しよろしくお願いしますね、時任先輩」
「だぁー認めねぇ!こんなのぜってぇ認めねぇ!」
まるでジョ―カ―が時任に恋をしたかのように、一度も時任の手から離れなかったのである。
もちろんその原因は時任のポ―カ―フェイスの無さにあるのだが、本人は全くもって気付いていないらしい。
誰だってカ―ドを引こうとする瞬間に相手が笑ったりすれば自重するというものだ。
トランプを片付けながら、時任は素直だからねー、と呟いた久保田に全員が頷いた。
「くっそー!!あっ!さりげなくしまうなくぼちゃん!もう一回だ!もう一回!」
「うっさいわね〜。負けたんだからさっさと行って来なさいよ!」
桂木はわめく時任の首ねっこを持ち上げ廊下に放り投げると、執行部のドアをピシャンと閉めた。
「ちきしょー・・・・・・」
歯をギリギリ言わせそう呟いた時任は、目にも止まらぬ早さで買い出しに出かけた。
急いで買って帰り、リベンジをしようという魂胆だった。
――次こそは勝つ!ぜってぇ勝つ!
負けず嫌いの時任は、まるでラッキーマンに出てくる勝利マンのように勝利への執念に取り付かれ、そしてやる気まんまんで猛ダッシュで帰って来た。
「おら!買って来たぞ!だからもう一回・・・・・・って、みんなどこ行きやがった!?」
勢いよく執行部のドアを開けてみれば中には久保田が一人いるだけだった。
久保田は読んでいた本から顔を上げいつもの細い目を時任に向けると、みんなとっくに帰ったよ?とあっさり告げた。
「あ・い・つ・ら・〜!!」
時任の握り拳に青筋が浮き出た。
「くぼちゃん!家に帰って特訓だ!」
「もしやと思うけどババ抜きの?」
「ったりめ―だろ!このまま藤原や他の奴らに負けたまんまでいられるかってんだ!・・・そういや藤原は?」
久保田がここに居るのに藤原が帰るというのは考えにくい。
しかも時任がいなかったため久保田を独占状態だったはずだ。
そう考えるとまた違ったイライラと苦しさが時任の体の奥で生まれた。
まるで心臓を誰かにギュっと潰されているようだ。
そんな時任の心を見透かすように、久保田は優しく時任の肩に腕をまわした。
「藤原なら桂木ちゃんにドアを直すように言われて材料探しの果てしない旅に出たよ?」
「・・・ふーん」
そっけない口ぶりでも時任の声色は嬉しそうだ。
「心配した?」
「心配って何のだよ」
「俺の貞操」
「アホか。んじゃ帰っぞ!」
「はいはい」
こうして、話は冒頭に戻る。
***
二人でやるババ抜きほどつまらないものはないと久保田は思うが、
相手が時任なら話は別だった。
久保田がカ―ドを選ぶ時の指先に敏感に反応する時任の痴体は、そのまま押し倒したいほどにエ口かった。
「はい、時任。配り終わったよ」
「さんきゅーくぼちゃん!」
通称十一回目のババ抜き。
さすがに時任もただやみくもにやるだけじゃ勝てないと解ったらしく、久保田に疑問の声をあげた。
「・・・・・・なぁくぼちゃん、どうやったらババ抜きって勝てるんだ?」
「どうって・・・」
久保田は少し視線を上にあげ、
「一番確実なのはイカサマだけど、時任には無理っしょ?」
「なっ!くぼちゃんイカサマしてたのか!?」
「一般人相手にはしてないよ?」
久保田の笑顔に時任は眉間にしわを寄せ更に詰問した。
「じゃあどうして俺は負けるんだ?」
久保田は言うか言わないか迷ったが、言うことにした。
散々楽しんだのだからもうそろそろ教えてあげてもよいと思ったのだ。
「時任はね、顔に出るんだよ。これはババだ、これはババじゃない、って」
うえぇぇっ!と自分の顔を押さえる時任は、まさにそんなバカな!と顔に書いてあった。
「だからポ―カフェイス、無表情でやれば大丈夫なんじゃない?」
「・・・んなこといきなり言われたってよぉ・・・」
相手が自分から引くカ―ドを見たら体が反応してしまう。
このクセを今から治すなんて時任には絶望的に思えた。
どうしたものかと首だけかくん後ろに倒した。
するとまたもや蛍光灯の刺激が時任の目を襲った。
「うあぁっ!!」
「時任それで二回目だよ?」
「くっそう。目をつぶるの忘れてた・・・。・・・・・・そうか!!」
謎は全て解けた!と言わんばかりに時任は弾け飛んだ。
「・・・時任?」
「さぁ来い、くぼっちゃん!!」
何やら自信に満ちた時任はグンっと扇形に広げられたトランプを久保田の眼前へと付き出した。
そう、時任は見事ポ―カフェイスを手に入れたのだ。
目をつぶるという方法で。
小学生でも思い付きそうな考えだったが、効果は覿面。
久保田がどのカードに触れても微動だにしない時任の姿がそこにはあった。
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