☆献上物☆
□玉響
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玉響
「そこのご婦人っ!これなんかいかがですか!?なかなか手に入らない西洋の硝子製品だよー!?」
「……」
ご婦人というのは、もしかしなくても私の事だろうか?
確かに今日は髪を結ってはいない。が、服装を見れば分るというものだろう。馬鹿かこの商人は。
しかしこの商人の目は、確かに自分だけを捕らえていて……
周瑜は重いため息を吐くと、『ご婦人』向けに勧められた物を覗き込んだ。
「……ほぉ」
どうやら宝石の類を扱っているらしいその店に飾られている中でも、一層深く涼しげな輝きを放っているそれを見て、周瑜は頷いた。
彼は幼少からなかなかの家で育ってきたので、こういう鑑定眼は極めて優れている。
商人に勧められた物は、海のように深い青の耳飾。
ひし形の青いガラスが三枚程重ねられた精巧な作りであり、それを手で持ち上げるとシャン、と涼しげな音が奏でられた。
「あ……」
(何か……伯符に似合うかも……)
彼は間違ってもご婦人ではないし、ご婦人に見間違えられようもない青年だが、顔立ちは整っているし、このような装飾品は似合うと思われた。
彼が喜ぶかどうかは別だが。
少しだけクスリと笑い、周瑜は店の主にその青いイヤリングを指差して言った。
「これを一つ」
「まいどありっ!」
※
「……周瑜?」
「何だ?孫策」
「お前……何してんだ?」
そう言われて、周瑜はにこりと微笑んで彼の耳からそっと手を離した。
「贈り物、だよ」
「はぁ?」
声を上げて聞き返し、目の前に鏡をかざす。
自分の耳に揺れるソレは、確かに海を連想させて美しく、きっととても高価な物だ。―――が。
「コレ、貴婦人用なんじゃねぇの?」
その繊細すぎる造りの耳飾は、どう見ても女物にしか見えなかった。
周瑜の笑顔が更に眩しく光る。
「その通りだが、何か?」
「いや、『何か?』って……、何か明らかに変だろ」
「何処が?」
呆れたように突っ込む孫策に、しかし周瑜はただただ笑顔を眩しくするばかりだ。
「君に似合うと思って買ってきた。実際君に付けてみて、この上なく似合っている。これ以上に何がある?」
「〜〜っ!!」
何があるも何もあったもんじゃないが、ここまでサラリと殺し文句を言われては何も言えない。
孫策が何も言わずに俯いていると、周瑜はその髪をくしゃりと撫でた。
「私が、君に忘れられたくないのだ。たとえ私が先に逝ってたとしても、―――君が、先に逝ったとしても」
弾かれたように、孫策が顔を上げる。耳元の飾りがシャンと涼しげな音を奏でた。
「こう…きん?」
茶色の瞳がか細く揺れる。
周瑜はそれを愛しそうに見遣ると、そっとその額に口づけた。
「気にするな。ほんの気まぐれからきた言葉だ」
にこりと微笑んでそう言うと、周瑜は彼の耳元に揺れる青に目を細めた。
「本当に、君によく似合っているよ。伯符」
指で小さく弾いてもう一度小さく微笑むと、周瑜はそっと目を閉じた。
―――願わくは、たとえ黄泉の世界でも
この太陽と、共にいれますように―――…。
<End>