小説【三國A】

□久々に。
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『久々に。』


「おいっ!なあ!おいってばっ!聞いてるのか陸遜っ!?」

「聞いてますよ。都督殿が遠征から帰還なさるのでしょう?」

多くの書物を抱えて小走りに廊下を渡る陸遜に孫策がひょこひょことまるで犬のように後を付いて回る。

数回ならともかく、本日数十回目となる言葉を今さらゆっくり聞いている暇など陸遜にはさらさらなく(何を隠そう都督殿が帰ってくるまでに終わらせなければならない仕事がまだ沢山残っているのだ。自分が仕事が遅いなどとは思わないが、都督殿がこなす仕事量は人域を遥かに超えているので数人でやっても普段の彼が片付ける量の仕事がちっとも片付かない)適当に聞き流しながら作業場へと急ぐ。

「そうっ!そうなんだよっ!!周瑜のやつ、早く帰ってこねぇかなぁ!」

「……今度の遠征は随分と遠かったですからね。まだしばらくはかかると思いますよ」

というか、まだしばらくかかってくれなければ自分が困る。仕事が終わっていないのだ。仕事が。

資料を机の上に置くと、再びまた別の資料を求めて先ほどよりも幾分か速く廊下を走る。その後には当然のように孫策が付いて回る。―――常に周瑜周瑜と言いながら。……はっきり言って、彼の人の名前よりもいっその事周りで微笑ましそうにこちらに温かい眼差しを向けてくれている人々への火刑の許可の言葉を与えて欲しい。

「ぇえー!?何だよ。今日すぐに会えるのかと思ってたのによー!」

テンション下がるずぇー、と言って肩を落とす孫策に「それは残念でしたね」とあまり思ってもいない事を言いながら前方に今の現状を打開するのに丁度良い人物を見つける。

「甘寧殿!」

素早く声をかけて急ぎ足のままに彼の許へと向かう。

相も変わらずだらけた雰囲気を醸し出す彼に、陸遜は無表情とも笑顔とも取れる表情で元来た道を指し示した。

「作業場に資料が置いてあります。山ほどありますが貴方ならどうにか出来るでしょう。私が次の資料を持って行く間にそれに目を通して簡単に内容を纏めておいてください」

ちなみに資料室と作業場を行き来するのにはさほど時間はかからない。

「はぁ!?おま、陸遜!無茶言うなよ!そんな事出来る訳…」

「そうですか。出来ませんか。それでは孫策殿のお相手をお願いいたしますね」

「はぁ!?」

甘寧が意味がわからないというような顔をして(まあ確かに突然こう言われて「はいわかりました」と言えるような自我の無い者だとは思わないが)こちらを見るが、それは敢えて知らないふりをしてぐいぐいと孫策を甘寧へと押し出す。それを見てまた周りが温かい眼を寄越す。いや、今度は多少苦笑が混ざっているか。

孫策がぶーぶーと不満を言う中、唯一甘寧が温かい視線でも苦笑でもなく呆れたような視線を陸遜へと送って突っ込みを入れる。

「……陸遜。俺が言うのもなんだけどよ……。その押し付け方は流石にちょっと失礼なんじゃ…」

「その通りだな」

「「………!?!?」」

突然降って湧いた声に、その場にいた甘寧と陸遜は揃ってギョッと目を見開く。ただ一人孫策のみが何とも嬉しそうに瞳を輝かせた。

「周瑜ー!おっせぇよ!待ちくたびれっちまったじゃねぇかー!!」

「すまないな、孫策。私も君に逢いたくて逢いたくて仕方がなかったのだが、なかなか思うように事が進まなかったのだ」

否。実際周瑜が行った遠征は本来ならばもう数日時間がかかる予定で(その為に陸遜の仕事総量にかかる時間の分配の目途が外れて焦っていたのだが)、なおかつ『万事滞りなく』の伝令が届いた日付から考えると移動も予定よりもかなり早まっている。―――一体どうしたらこんなにも奇跡的な快調さで物事が進むのだろうか。今度機会があれば是非とも教えてもらいたい。

(ああ……二人の周りが輝いてきましたね……)

公衆の前でひしっと抱き合う周瑜と孫策を少し遠い眼で眺めながら、陸遜は盛大な溜息を吐いて必要な資料を集め、作業場へと戻って行った。

二人の世界に入った都督殿が仕事に戻るのには、きっと一日は掛かるだろう。

その間に片付けねばならない仕事の量を頭に思い浮かべて、彼は再び誰にも気づかれないような小さなため息を一つ吐いた。


<End>


久々にUPしました☆
とりあえず瑜がとにかく凄い人になってますね☆もう彼は神でも良いと思います(笑)
……何か陸遜が物凄く打ち易かった…。葛の中の陸遜はこんな感じに近いです。

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