小説【三國A】
□占い
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『占い』
「ねえねえ策兄ー!この本知ってる?」
そう言って真っ赤な本を手に駆け寄ってきたのは、年を追うごとに可愛くなってゆく妹の尚香だ。
よく「孫家のご家族は真に仲がよろしく羨ましいかぎりです」云々言われるけど、家族ってもんは普通こういうもんじゃないのか?―――まあとりあえず、尚香は弟の権共々やっぱりいつ見ても目に入れても痛くない程に可愛い。
そんな尚香に、俺もニカっと笑って振り返る。
「んー?どれだ??…うわ!何だこの分厚い本!?俺はこんなん読まねぇずぇー!?」
見るからに拒否反応を起こしたくなるような分厚い本に、しかし尚香は「えー」と口を尖らす。
「策兄にも参加して欲しいのに!コレね、今流行ってる占いの本なのよ!?」
ちなみに本の表紙の色により占うものは変わるらしく、赤が恋愛で緑が健康で青が策略で黄色が金運らしい。赤を選ぶあたり流石女の子というか呉軍というか…。
流行の占いと聞いて少しは興味を持ったものの、やはり『本』というところで抵抗を持っていた孫策に、すぐに尚香は焦れたように孫策の目の前でペラペラと本の頁を捲り始めた。
「尚こ…」
「はーい!じゃあ行くわよ策兄!まずは好きな人を頭に描いてちょうだい!あ!もちろん恋愛感情でよ!?」
―――恋愛感情で…?
ぱっと出てきたのは何故か周瑜だったが、如何せん自分の彼への想いは恋愛感情に値するのだろうか?……お互いに友情という方があっている気がする。きっと真っ先に周瑜が思い浮かんだのは、彼が常日頃「私は君が愛しい」とか何とかを結婚ごっこがしたいのかしょっちゅう俺に言ってくるからだ。
しかし他に思い浮かぶ相手もいないので、とりあえず周瑜のままで進めていこうと決めると、丁度心の中を覗いていたかのようなタイミングで尚香が次の項目へと続けた。
「えーっと。じゃあ次にその人の好きな箇所はどこでしょう?」
好きな…ところ…?
「髪…とか。目…とか?」
周瑜の髪はいつもさらさらとしていて見ててとても綺麗だし、触ると凄く気持ちが良い。
普段人前では笑顔貼り付けてるくせに、俺の前だけではソレを全部削ぎ落としてふんわりと本当に嬉しそうに笑ってくれるときの、あの眼が、本当に胸をぎゅって抱きしめられるような気がするんだ。
ソレが…本当に、俺が好きな、一番好きな一瞬なんだろうなって、時々思う。
その後も数個の質問を受けて答え終えると、やがて尚香はばっと顔を上げて嬉しそうに笑った。
「策兄!ほら、コレ!見て!」
その言葉と共に差し出された本の頁に視線を向けると、尚香が満面の笑顔で読み上げてくれた。
「『あなたの恋は、もう既に相手に届いているでしょう。相思相愛なので何も心配は要りません』ですって!私なんて『遠距離恋愛の予感。難しいので頑張りましょう』だったのに!策兄ったら羨ましいわ!」
とある日の午後。
いつにも増して平和な声が、孫家に響き渡っていた。
<END>
因みに『占いの本』の『赤』は周瑜。『緑』は諸葛。『青』は司馬
ちゃん。『黄色』は袁尚(笑)著です(笑)