小説【三國】

□僕らの家
1ページ/1ページ

「あそこら辺にさー」
「?」
「家とか建てたら便利そうじゃねぇ?」
「…………君は何を言っているんだ?」
 とある日の昼下がり。二人並んでなんとなく城から景色を眺めていると、何の脈絡もない事を隣の男が言い出した。
 理解出来ずに軽く眉をひそめる周瑜に、孫策は『(希望的:仮)建築予定地』辺りを指差して更に続ける。
「ほら、あそこに市場があるし、城からそんな離れてないし。厩にも近いし…」
 まぁ、確かにあながち間違ってはいないが……。
「しかし家ならば今住んでいる城で十分ではないのか?」
 そうなのだ。
 城は広く、雑用係もいて苦労することなど滅多にないし、孫策の好きな市場とも然程離れてはいない。そもそも『市場』というのが城を中心に栄えた『城下町』なのだから、城の周りに市場があるのは当然といえよう。
 当たり前な事をさらりと告げて不思議そうに訊く周瑜に、しかし孫策は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「あーもう!!わかってないなー!お前ホントに軍師か!?」
「な…!!」
 ひどく自尊心を傷つけられる言葉を言われ、思わず目尻をつり上げ絶句する。何も言わないのではない。何も言えないのだ。あまりの怒り故に。
 しかしそんな周瑜の事など知った事のないように孫策は相変わらず不機嫌そうに頬を膨らませる。
 やがて、彼は頭をばりばりと掻きながらぶっきらぼうに吐き捨てた。
「城じゃ、いっぱい人がいるだろ!?」
「あた……」
 当たり前だと言いかけて、周瑜ははた、とその口を閉じる。
 非常に。本当に非常にわかりにくいのだが。………これは、もしや………
 しかしこれといった確信を得ていないので、一応鎌をかけてみる。………軍師だから物事に細心の注意を払うのだ。
「……君が大勢の人々に囲まれるのが好きではなかったとは意外だな」
 静かな口調で言ってやれば、君はふて腐れた顔をする。
「……俺だって、たまには一人になりたい時くらい、ある」
「一人?」
 思わず半ば本気で訊き返し、周瑜は孫策の顔を覗き込んだ。途端、「うっ」と唸るような顔をした彼に、妖しく楽し気に周瑜は畳み掛ける。
「私と共に居たい事はないのか?」
「な……!」
 見ていて面白い程に顔を急激に赤く染めていき、孫策は口をパクパクと開け閉めした後、ぐっと詰まったような苦い顔をして、ぼそりと呟いた。
「大声で言うんじゃねぇよ馬鹿やろー」
 そのあまりの可愛さに、周瑜は思わず笑みを禁じ得ない。
 くすくすと笑いながら、「別に大声でなど言っていないが?」と言ってやると、孫策は怒ったように周瑜を上目使いで睨みつけた。
「うるせぇっ!!っていうか俺が家建てたいって言った時すぐに気づけよ!!」
「何に?」
 わかっていながら、敢えて訊く。
 彼の、孫策の口から、聞きたいから……。
「…………お前と二人だけでゆっくりできる所が欲しい………って事……だよ」
 最後の方は恥ずかしさのあまりか尻すぼみになっていたが、周瑜はその言葉を一字一句逃さず聞いた。
 胸にじんわりと熱さが込み上げ、心臓をわし掴みされた感覚に陥る。
「孫策……っ!!」
「わっ!ちょ、周瑜っ!苦しいって!!」
 ギュッと抱きしめると、中で孫策が照れて暴れる。その温もりを感じつつ、周瑜は彼の耳元にそっと囁いた。
「私は、いつでも君の傍にいよう……」



END

きっとこの後周瑜は呉の経済を勝手にいじってその金で策との為の家を建てたのでしょう……

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ