小説【三國】
□春
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春の麗らかな日。周瑜は珍しく入った暇を読書に費やしていた。
少し前に新しく読み始めた本のページを、また一枚はらりと捲る。
(平和だ…)
この乱世の束の間の平和を思い、静かな時を堪能する。
暖かな風が吹き、草木が囁き合う。
馬が駆ける音が遠くに聞こえる。
小鳥が小さく鳴き声を上げる。そして羽ばたく、音。
それ以外何も聞こえない、平和で閑で静かな時―――…。
「しゅ・う・ゆ〜っ!!」
「………!?」
―――は、突然崩された。
ガバッと物凄い勢いで抱きつかれバランスを崩す周瑜に、孫策は満面の笑顔を向ける。
「休みだずぇ〜っ!!」
「………ああ。休みだな」
クシャクシャになりそうな書物を何とか死守し、周瑜は孫策に苦笑を向ける。
毎度ながら眩しい彼の笑顔は、休みだからだろうか。いつもに増して輝かしかった。
「何か良い事でもあったのか?」
あまりの眩しさにそう言えば、彼は「おうっ」と頷いて懐をあさり始めた。不思議そうに見る周瑜の目の前に、やがて一枚の紙が現れる。
「………何だこれは?」
何やら嬉しそうにニコニコと笑ってこちらの様子を窺う彼から、周瑜はその紙を受け取ってじっと眺めた。そこには地図らしきものが描いてあり、ある一点に朱色の×印が打ってある。
―――これは……まさか……?
「………孫策。これは何だ?」
改めて訊く周瑜に、孫策は子供のような笑みを浮かべて、言った。
「宝の地図だっ!!」
唖然とする自分に、孫策はもう一度太陽のような眩しい笑みを浮かべると、周瑜の手をぎゅっと握りしめて立ち上がらせた。
「行こうぜ周瑜!!……冒険だ!!」
最初は楽しそうに。最後は悪戯を思いついた悪ガキのように。しかしやはり彼は嬉しそうに微笑んで、私を見た。