小説【三國】

□孫策の憂鬱
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 ここは何とも平和な空の上。
 そこにある『下界見の水瓶』を覗き込みながら、孫策は物憂げなため息を吐いた。
「あー…」
「どうした、孫策?」
 先程から(というかいつも)一緒に居た周瑜が不思議そうに首を傾げる。今日も例に変わらず天気は良いし、平和だし、なんと言ってもずっと孫策と共に居られる周瑜には彼の憂鬱そうな気分が理解出来なかった。
 そんな彼に、孫策は元気無く水瓶を指差す。そこには次から次へと反旗を翻され苦戦する関羽を魏の兵と共に背後から襲う呉の姿―――…。
「ああ。今回は陸孫が立てた策らしいな。上手くいっているではないか」
「いや……」
 そこで哀しそうに首を振る孫策。何だか見ているこっちまで哀しくなってしまいそうで、周瑜は優しく孫策に訊ねた。
「どうしたというのだ?孫策。言ってくれねばわからないぞ?」
 やっと顔を上げて周瑜の顔を見、孫策は今にも泣きそうに必死に訴えた。
「だって、関羽だぞ?蜀だぞ?尚香が嫁いだトコだぞ!?」
「まあ……そうだな」
 だが今は下界は乱世だから仕方が無い。と言おうとした途端、孫策はそれを拒むように周瑜の服をギュっと掴み(そして自覚無しに周瑜の心もギュっと掴み)、続けた。
「確かに今は乱世だけど……でも!尚香と劉備の挙式の時、あいつ…劉備、何て言ったと思う……?」
(―――――娘さんを下さい……?あ、いや。孫策の場合は妹さんを下さい……とか?)
 一番メジャー且つ無難な言葉を思い浮かべた周瑜に、孫策の言葉が答を与える。
「あいつ、『妹さんは私が命を賭して大切にします!お兄さん!』って言ったんだぞ……!?」
(……………『お兄さん』!?おのれ劉備!よくも私の許可無く孫策のことを『お兄さん』などと……!私でもまだそう呼んだ事は無いのに……っ!)
 ぎり、と歯軋りする周瑜に、孫策は気付かず更に続ける。
「でな?劉備が俺の弟だとすると、その弟である関羽も張飛も俺の弟であって、そうするとそいつらが護ってる蜀も、権が護ってる孫呉も、両方とも俺の弟が治めてるわけで……」
 それはすごい。
 周瑜はわずかに感嘆しながら、孫策に相槌を打つ。
「それでは魏の曹丕に君の娘が嫁いで正室の座を奪い取れば曹丕は君の息子となって晴れて実質上孫呉の天下統一となるわけか」
「いや、それもそうだけどそうじゃなくてよ〜……」
「?」
「その、な?権と関羽は俺にとっちゃどっちも可愛い弟なもんだから〜……」
 あの巨体な美髭公が孫策の弟という時点でとても違和感を覚えるが、そこは敢えて突っ込まずに黙って孫策の続きを聞く。
「やっぱ呉と蜀は仲良く手を組んで、二国で協力して魏を倒して欲しいんだずぇ〜……」
「………」
 思わず黙り込む周瑜。
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