小説【三國】

□とある日の戦にて
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「孫策……。君は私よりも、周泰を選ぶのか…?」
 戦の真っ最中、周瑜から何度か苦戦コールをもらい、やっとのことで彼の元に辿り着いた孫策は、出会ってからまず初めにそう言われた。
 ちなみに、軽く十回は越す苦戦コールを送られていたはずなのにも拘らず、孫策が駆けつけた時には敵はおろか、味方さえも、周瑜を除いて一人としていなかった。
「いや…。別にそんなわけじゃねぇけどよ……。遅くなって悪かったって!まあ、お前が無事で良かったぜ!」
 ニッと笑って見せるが、周瑜の表情は浮かない。気まずい雰囲気が二人の間を支配した。
 しばらくして、周瑜が口を開く。朗々とした声音が沈黙を破った。
「孫策……。君はそんなにも周泰に誉められるのが嬉しいのか……?私の元に駆けつけるのが嫌になるほどに周泰の元に居たいのかっ!?」
 珍しく声を荒げる周瑜に、孫策は目を見張って声を失った。そんな彼に、周瑜は更に苛立ちを露にする。
「君は…っ!私が居なくたって別に構わないということか……っ!?私…っ私が!死んでも周泰さえ君の傍に居て、君を支えていればそれで構わないのか……っ!!」
「そんな事言ってねえだろ!!」
 叫ぶ周瑜に叫び返し、孫策は後ろに居た衛兵四人に素早く指示を出した。
「悪いな。俺の護衛は良いから、二人に分かれてそれぞれ父上と周泰と共に戦ってくれ」
 しかし、衛兵隊長のみならず、四人ともが揃って少し不満げな顔をする。彼らは孫策の護衛という職務に誇りを持っているし、孫策の人柄に心底惚れ込んでいるのだ。出来れば自分達自身で護りたいのであろう。
 孫策が苦笑を浮かべて頭を掻いた。
「あー。ホント悪いって思ってる!でもほら、俺と周瑜が居ればどんな敵でも倒せるだろうから心配すんなって!な!?頼む!」
 パンっ、と両手を顔の前で合わせて上目遣いで訴える孫策に、遂に衛兵達が折れた。
 彼らは頷くと、その場で速やかに二手に分かれ、主の命令通りに残る二人の武将達の方へと向かって行った。
 辺りに、周瑜と孫策以外の人間が一切見えなくなる。 孫策は、黙ったまま俯いている周瑜の顔を無理に覗き込もうとはせず、しかし彼の顔をしっかりと見て真摯に告げた。
「馬鹿なこと言ってんじゃねーよ。お前が死んだら、俺は…」
「……また、周泰か」
「は?」
 孫策の言葉を遮るように、周瑜が低い声を出した。意味が分からず呆けた顔をする孫策に、周瑜が掴みかかる。
「また…!また君は周泰の名を口にしたっ!君はそんなにも周泰のことが気になるのか!?それなら私など捨てて、さっさと周泰に乗り換えれば良いではないかっ!君は次期大将なんだ!!孫権殿の護衛役とはいえ、別にできない事ではないだろう!?」
 今まで見たことの無いほどに荒れた周瑜の声に、孫策は遠くにいた周瑜の苦戦コールよりも、目の前で敵に一人だけで囲まれていた周泰を優先して戦ったことを少しだけ悔やんだ。
 自分が来たときに周瑜の味方が一人としていなく、そして十回を越す周瑜からの苦戦情報があったのとを繋ぎ合わせれば、ここでどれだけ激しい戦いがあったのかは容易に想像ができる。
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