一発芸

□神威
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 朝日がまだあがらない頃に、わたしは誰かに揺れ起こされた。


「おーい、朝だよ」

「ううーん…あと五分…三十秒……」


 誰か、といっても相手は限られている。わたしを連れて旅をして、あちこち回っては食物をあさりその代金は全てわたし宛にしやがる、天下無敵の神威さんだ。

 でも今日は早すぎる。いつもならまだ二時間は寝ていられる、なのにどうしてだろう。頭の回転がのろいままわたしは無意識のうちに寝返りを打ちかけて、


「!!」


 急激な浮遊感を感じたかと思うと、首根っこをガッシリつかまれ、そこでようやく目を開ける。

 わたしは、青空の下で、宙ぶらりんになっていた。


「……………どこですかここォォォォォ?!!!!」

「あ、起きたんだ」

「…………」


 後ろから奴の声がしたけど、振り向けない。ここで暴れたら数十メートル下にある地面に落ちてしまう(または落とされる)

 なぜだ。

 昨日の夜は木の幹を背もたれにして眠ったはずなのに、なぜわたしはその木の上にいるのだ。……なんて言ってもわかってるけどね、どうせ奴の仕業だってね。


「……神威さん、どうしてこんなことになってるんですか?」

「いつまでたっても俺を無視して寝るもんだから、ここに上って殺そうと思って」

「!!」

「あはは、うそうそ。ここ、景色がいいなあと思ってね。それであんたが寝返り打って落ちそうになったから、助けてあげたんだよ」

「あ、そうなんですか」


 ホッとしたわたしに、しかし奴こと神威さんはボソッと毒を吐いた。


「まあこのまま落としても面白そうだけどね」

「すいませんでしたほんとっすみませんでした!! だからやめてください勘弁してください!!!」

「冗談だってば」


 ケラケラ笑う神威さんにぐいっと引き寄せられたわたしは、今度わたしを狙ってきた悪党に、お金をあげるからある男を暗殺してくれと依頼しようと心に決めた。……上手くいくとは到底思わないけど。










さて、今日も頑張りますか。










 地上に降りた時、木の幹に血がびっしゃりついていたけど、


「……………」


 わたしは見なかったことにした。



拍手感謝の短文。

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