一発芸

□雲雀
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「あーあ、雨だね」

「……」

「今日は傘で登校だね」

「……」

「……」

「……」

「…あの、バイクは無理だって」

「うるさい」

「(実の弟に怒られた!)」





ひばりねえのまい





 朝から雨のせいですごく機嫌が悪くなった弟は、いったん取り出したバイクの鍵をしまった。そう、弟は毎朝バイクで登校するのが普通。歩いて登校すればいいのに、弟は絶対に、わたしを後ろに乗せて登校という手段を譲らない。どんなにわたしが寝坊しても待っているのだ(ここら辺は弟としてなんだかかわいい) そして結果わたしはいつもバイクの後部座席(?)に乗って登校している。だけどそれは朝が晴れか曇っている時だけだ。だから今こうやって朝から雨が降れば、傘をさして歩いて登校するしかない。

 わたしは別に構わないんだけど、弟はそれが嫌らしい。わたしが傘を渡すと、むすっとした顔で「姉さんのは?」と尋ねてきた。


「わたしのはこれ。この前、新しく買ったんだ! 骨が多くてかわいいでしょ」


 友達とおそろいだし、と自慢げに微笑む。それに対し、弟はどうでもよさそうな表情を浮かべていたけど視線を傘からわたしに戻すと、黙って手を差し出してきた。


「もっとよく見せて」

「え…何を?」

「傘。…姉さんでもいいけど」

「はい傘ですねどうぞ!!」


 声を張り上げて、弟へ傘を献上する。良くない、きみが良くてもわたしは良くない!

 これか、と弟はわたしの傘をジロジロと見ながら、左手に持ち変えた。


「ふーん……。…この傘のどこが、その人とおそろいなの?」

「え? あ、うん。色違いで、模様が一緒なの。ほら、水玉模様でしょ」

「うん」


 そうだね、と同意しながら弟は自分の傘を右手に持ち、柄を掴んだ。そしてわたしの傘をパッと広げると、目を細めた。


「!! うぎゃあああああっッ!!!」


 わわわわたしの傘がーーーーー!! 水玉模様が次々に刺されて破裂していくううう!! そんなわたしの絶叫にも無言の中、弟は作業を続ける。

 その作業というのは。開いたわたしの傘を胸あたりまで下げると、上から自分の傘の先端を突き刺し出すものだった。しかもよりによって傘の大部分をしめる水玉模様を集中攻撃。こればっかりは反撃せずにいられない。


「な、何してんの!? せっかくのおそろいなのに!!」

「ムシャクシャしたから」

「(こ…このジャイアンめ…!!) ていうか、わたしの傘それだけなのに!!」

「問題ないよ」


 ズッタズタのボロッボロになって返ってきた傘(ああ、いたたまれない…)を見下ろしながら、わたしは弟の返事に首をかしげた。これのどこに問題がないっていうの?!

 弟は自分の傘をパッと広げて、わたしの手を引いた。つまり一つ傘の下に、弟と並んで入るかたちになる。…この歳で、弟と相合い傘……。けれど雨が止む気配無しで傘がこれしかない為、遠慮するのはまずい。


「これでいいでしょ、ほら、行くよ姉さん」

「いいっていうか……………………うん」


 腕時計を見れば、いつもより五分遅れた出発だ。今更だけどこの原因は、時間に厳しい弟にある。風紀委員長的にはいいんですかこれ?

 試しに聞いてみたら、答えじゃない答えが返ってきた。


「大丈夫、何かあったら呼んで。僕が行くから」


 絶対に呼んでたまるか!!










にび色の雨空と上機嫌な弟
「あ、晴れてきた…」

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