一発芸
□中村
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「あら京次郎さん、また来てくれたんだね」
「おう。困ったもんじゃ、財布が軽うなるとわかっていても、ここに来たくなっちまう」
女店主のたくましい笑顔に、無表情でそう返す。娑婆とは縁遠い世界で生き続けたせいか、この店主のように素直な笑顔がつくれない。それならば不気味な笑顔よりも、何も浮かべないほうがまだましってもんだ。
「ははは、それじゃ今日も一段と軽くしてやるよ」
奥に引っ込んだ店主とほぼ入れ替わりで、一人の女がのれんから顔を出した。
「あ。…いらっしゃいませ」
「団子一つ頼む」
「はいっ」
いつもならそれですぐに店主の後を追うが、今日はなぜだかその足をぴたりと止めた。そして顔を振り向かせると、拳をぎゅうと握りしめたまま、早口で尋ねてきた。
「あのっお茶はいりますか!」
「あ? ……ああ、いい。そこまで金は持っとらん」
「じゃ、じゃあ…わたしが奢ります」
「………なんじゃ、えらく気前がいいのう」
「い、いや…そういう意味じゃないんですけど……い、いつも来てくだすわってるか…ら(かんだ!!うぜータイミングでかんだ!!)」
「………」
不思議と、このねーちゃんを見ていると若を思い出す。共通点は何もない。しかし一目見た時からそう思ってしまい、その日から毎日ねーちゃんを見たいが為に通うようになっていた自分がいた。若とだぶらせるなんてとんでもねー話だが。
「……あ、あの…」
「ああ、頼む」
その時、ただそう言っただけのわしを見て、なぜこの女はこんなに嬉しそうに笑うのかが、まったくわからなかった。
だがわかったことは一つある。
「…………似とるな」
「え?」
「いや、お前さんじゃのうて、こっちの話じゃ」
「はあ」
たしかに、このねーちゃんと若は似ている。
あなたのお家はどこですか?
(まぶしいんじゃ、まぶしくてしょうがねえ)