一発芸
□中村
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この団子屋でアルバイトを始めると、妙な固定客ができた。
その人はお世辞にも優しそうとは言えなくて、ただぽつんと、赤い敷物を広げた長椅子に腰掛けて、おかみさんの焼いた団子をもぐもぐ口に運んでいる、
「ねーちゃん、もいっぽん くれんか」
極道のおにいさん。
迷子の迷子のお犬さん
お客なんだから、偏見はいけない。頭ではきちんとそう考えていても、体は今日もうまく対処できなかった。
「へ、へい…こちらになりやす」
「………」
馬鹿みたいに口調まで変えて、音を立てないよう皿を慎重に置く。それができた後は、ホッとしたあまりちょっと微笑む余裕ができて、その顔でおにいさんと目が合った。瞬間顔の全ての筋肉が引きつり、本能的に一歩後ずさる。この馬鹿!
「すまんのう」
ところがおにいさんは、変人と化しているわたしに何か絡むわけでもなく、そう一言もらすと再び団子を口にし始めた。それをボーッと眺めている状況は長く続かず、おかみさんに呼ばれて奥へ引っ込んだ。
変なの。懐に銃忍ばせた、切り傷が自慢げな極道のくせに部下一人連れずに、こんなちっこい(あ、やべおかみさんにぶっ飛ばされる)団子屋に日参して。でも格好いいなあ。