モラル

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「政宗さん、あーんしてください」
「おい真田、飲み比べしてみねえか?」
「調子に乗ったこと謝りますんで無視はやめてください!」


 みんながいるからって照れなくてもいいのにね。わたしは政宗さんにあーんするはずだったお米を、口の中にさみしく放り込んだ。せっかく隣にいるのに・・・せっかく小十郎さんに勝って隣に座れたのに・・・!! はあ、とため息をつくと、わたしの隣の人物もため息をついた。政宗さんは左側で、ため息をついたのは右側の人だ。誰だっけ、この人。ああ、


「オレンジ頭さん!」
「本人を目の前にしてよく言えるね」


 あはは、すいませんね。わたしは棒読みで謝ると、またお米を口にいれた。うん、美味しい。いつきちゃん達を思い出すなあ。今度遊びにいってみたいけど、遠そう。この時代にタクシーとか電車とかがあったらいいのに。そんなことを本気で考えていたので、オレンジ頭に肩を揺さぶられてもわたしはしばらく気づかなかった。おまけに、考えていたのではなく、実際に口に出てしまってたみたい。


「何言ってたの? さっきから、ブツブツ」
「あー・・・ちょっと考え事をしてました」
「へえー。てっきり、伊達の旦那に冷たくされたから落ち込んでるのかと思ってた」
「もう慣れました」
「そうかー、毎回こうなんだ」


 お嬢ちゃんも大変だねー、と哀れみの表情を浮かべるオレンジ頭(キーー!!) しらないんですかッ、女の子は恋を成就させるより恋をしているほうが幸せなんですから! そんなでまかせを盾にして、わたしはお茶をすすった。
 ていうかわたし、名前名乗ってなかったんだっけ。いきなり登場してたもんねえ(正確にはこのオレンジに登場させられたんだけど!) 今更だけど、一応 自己紹介しておこうかな。わたしは箸を置いて、オレンジ頭のほうに体を向けた。


「超遅いですけど、名無しさんです。これからよろしくお願いしますね、オレン」
「猿飛佐助です、どうも」(ニコ!)
「・・・・・・どうも」


 即答でした。チッ、大人げない。政宗さんだったらあだ名で呼んでも嫌がらなかったんだからね! ドラゴンさんって呼んでも嫌な顔しなかったし。でも将来の夫だから、名前で呼んでいるわけ。
 そういえば、さっきオレ・・・猿飛さんもため息ついてたよね。


「猿飛さん、さっきため息ついてましたけど、何かあったんですか?」
「あー、さっきのね。いやあ、これからのことを考えてたんだけど、疲れそうなんだ」
「はい? どういうことですか?」
「真田の旦那がさー、来る途中ずっと言ってたんだよ。奥州の露天風呂がどんなもんかとか食事とか道場とか、けっこう理想持ってたらしくて」
「へえ」


 真田さんを見ると、食事は文句なしとばかりにバクバクと料理を胃におさめている。伊達さんの飲み比べには、武田さんが応えたみたいで、ワインを手にニヤニヤ(楽しそうだな、お互い) じゃあ、道場はどうだったんだろう。聞いてみると、それは明日の話だった。明日の朝から手合わせか・・・熱いなあ。


「そんで、あとが露天風呂なんだけど・・・」
「別にいいじゃないですか! いいですよここの露天風呂〜、前に一度入ったことあるんですけど、天然モノであったかくて、ずっと つかっていたかったくらいです!」
「それは誠か?!」
「ぎゃー!!」


 背後からいきなり大声がかかったので、わたしはビックリした。真田さんはお椀を持ったままこちらに来ていた。お行儀が悪い・・・


「旦那、口に米! ご飯に箸をぶっ刺さない! 足を立てない! つーかこっち来ないでくれる?」
「!!」
「猿飛さん、最後は可哀相ですよ」


 猿飛さんはあれでしょうか、真田さんのオカンなんでしょうか。ていうか、わたしが小さい頃注意されたこと、真田さんが今こうやって注意されてる・・・うーん、軽いめまいが(真田さんて何歳!?) 真田さんは口元の米をとり箸をとり、正座にしたものの来ないわけじゃないみたいだ。ススススス、と正座のまま、わたしと猿飛さんの間にやって来た。


「うわっ、旦那どうやってそれやってんの?!」
「すごいであろう! それがし 少しは学習したのだ」
「いや、自慢できないですよこれ。むしろ怖かったですよ」
「名無しさん殿は怖いのは苦手なのか?」
「そういう問題じゃないです、真田さん」


 ふう、やっぱり賢い政宗さんといたほうが疲れないや。政宗さんはどこだろう、と見回すと、ちょうどバチッと目があった。・・・あれ、なんか不機嫌? ああ、武田さんに負けたのね。まったく、政宗さんも子供なんだから!


「そんな政宗さんにフォーリンラブです!」
「なんでいきなりそうなるんだ、アンタの脳みそは」
「いえ、政宗さんと目が合ったのでテンションが上がったんです」
「なんと! 名無しさん殿が異国語をご存じとは・・・!」
「え? ああ、真田さん達はわたしのこと知りませんでしたね」


 そういやそうだ、話してなかった。ふふん、しょうがないわね、話してやろうじゃないの!


「そう、あれは雪の降る朝でした!」
「It is not a morning but night.俺の記憶が正しけりゃな」
「あれは雪の降る夜でした!」
「お嬢ちゃん頑張れー」









聞かせてやろう、ほととぎす!
ヒロインは政宗さんと小十郎さん以外は名字呼びです。

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