ハラス

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 そして現在、酒をどんどん注がれ、始めは「ミセイネンですから!」と断っていた嬢ちゃんが、今はぐいぐいとその酒を呑んでいた。あーあー、何やってんだか。更に厄介なことに嬢ちゃんは泣き上戸でも笑い上戸でもなく、怒り上戸だった。出発の時元気がないとは思ってたけど、どうやら昨日、片倉のオニイサンに何か言われたらしい。あまりにもバカバカと連発するので、俺様も続いて言うと、旦那に睨まれちまったけど。

「旦那がいらないこと言ったからだよー、なァにが『嫌な事は吐き出したほうが良いでござる!』だか。聞いた本人が一番びびっちゃって」
「う、うるさいぞ佐助! ・・・まさか名無しさん殿がここまで思い詰めていたとは・・・」

 俺様と真田の旦那にはさまれている嬢ちゃんは、赤い顔をしながら お椀を持つと、ご飯をかきこんだ。うおっすげえ! 酒の後に米を平気でかきこむのが流石 嬢ちゃんだね。と思ったら すごい口の中が気持ち悪そうな顔になった(そうだ、アホなんだこの子)

「でもさ、俺様も正直ビックリしたよ」
「何がだ、佐助」
「普段 伊達の旦那にくっついてるのに、どうして今回だけ真田の旦那についてきたのかなって」

 旦那には悪いけど、断られると思ってたんだよねー。魚をつつきながら言う俺様の感想に、嬢ちゃんは目をしばたたかせる。酔いが少しさめたのか、口調が戻っていた。

「だって、あそこまでされたら 行くしかないでしょう」
「あそこ・・・ああ、俺らが嬢ちゃんの不安要素をすべて解消したやつ?」
「・・・まあ、それもありますけど。一番の理由は、真田さんです」
「・・・それがし、でござるか?」

 今度は旦那が驚く番だ。それに嬢ちゃんは にこっと笑って、

「ご丁寧に団子まで持ってきてくれて、すごく感心してしまったんです。それでその感動のあまりここまで来ちゃったんですよねー、多分」
「ああ、なるほど」
「待て待て、どうしてそこで納得するのだ佐助。それがしが団子を持って訪れたのは、以前名無しさん殿が約束をしたからであって、何も感心されることはない」
「ははは、真田さんはそのままでいいですよ。真相を知らないままで。ね、猿飛さん」
「ねー、嬢ちゃん」

 あの戦闘には全く参加せずに高みの見物だった俺様だったけど、嬢ちゃんが 早く家に帰りたいのと、旦那の懺悔をこれ以上聞きたくないという理由で適当に言ったことは理解していた。そんな適当さえも真面目に受け止め、見事に約束を果たす旦那に、嬢ちゃんは 感心してるらしい。ま、そこが旦那の唯一の長所だしね。
 ところが何も知らない、ていうか何もわからない旦那は、俺らが仲良く首をかしげ合うのが不満だったらしい。

「お館様、そろそろ宴をお開きにしましょう。名無しさん殿を風呂に連れて参りますゆえ」
「そうだのう、夜も更けた」

 大将は話を聞いていたくせに(旦那の隣だからね)まったく 無関心とばかりに、宴をあっという間に終わらせてしまった。まったく、おっさんの考えることはわかんねーなあ。
 でも、

「名無しさん殿、それがしについてきてくだされ」
「えっ、あ、はい!」

 旦那なら、心の中までばっちりわかるんだよねー。ちょっと嬢ちゃんと仲良くしたくらいで、そんなにムキになんなよ。

「旦那、眉間にしわよってるよ。色男が台無し」
「うっうるさい! 誰のせいで・・・」
「? 誰のせいなんですか、真田さん?」
「・・・名無しさん殿はわからなくて良いでござるよ」









伊達の旦那、こりゃ危ないかもね。
真田さんといると素に戻るヒロイン。リクありがとうございました・・・!
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