ハラス

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 甲斐に着いた俺達は、まず嬢ちゃんに客室を案内した。客室は日頃 使われてないから心配になったんだけど、さすがうちの女中、埃一つない。それに景色も嬢ちゃん好みらしく、疲れも感じさせないほど騒いでたので、満足なんだろう。ただ、その騒ぎようがいつもより異常だなー。なんて。

「名無しさん殿、しばしここで くつろいでくだされ。それがし、お館様に話をしてくるでござる」
「はーい、わかりました」
「はーい、俺様もここにいま」
「猿飛さんキモい真似しないでください!」
「お前は一緒にくるのだ、給料泥棒め!」
「二人ともひでェ!」

 嬢ちゃんの隣で、嬢ちゃんの声真似をしてみたら、酷いことになった。嬢ちゃんより旦那が口が悪いってどうよ。昨日 偵察の後 寄り道して団子食って帰っただけで給料泥棒って・・・!(単に羨ましかっただけだろ!) 旦那に首ねっこをつかまれると、ずるずると引きずられていく。一見 普通のことなんだけど、嬢ちゃんは旦那が予想以上に力持ちだということにビックリしたのか、目を丸くしていた。

「んじゃ、嬢ちゃんごゆっくり〜」

 角を曲がって見えなくなっても、大将のいる部屋の前まで、俺はずっと引きずられていた。あれっ、旦那、そんなに怒ってるの?

「べーつに、ちょっと くっついたくらいで妬くなよなー。みっともないぜ、旦那」
「だっだだだだれが 妬くなど・・・! 佐助が名無しさん殿に昨日から破廉恥な事を・・・」
「はいはい、妬いてる奴はみーんなそう言い訳するんだよ」

 とりあえずこのまま大将の前に現れるのは恐ろしいので、俺は 素早く旦那の手を離れた。そして少し後ろに立って、「どーぞ」と旦那を促す。まだ納得してない表情だったけど、気を取り直して、

「お館様アアアア! 只今戻りました!!」

 部屋の中に飛び込んだ真田幸村(ああ、態度が全然違う・・・)に、武田信玄が「幸村ァ!」と怒鳴りつけた。いや、訳したら「おお、戻ったか!」なんだろうけど・・・いやはや、熱い人間には熱い人間用の言葉があるみたいだ。俺様まったくわかんないけど。
 それから思う存分殴り合わせた後、大将に嬢ちゃんのことを報告する。すると「その娘に会わせよ」と言うかと思えば、「宴じゃァ!」と叫んだ。え、なんで宴?

「あのー、大将?」
「どうした、佐助ェ!」
「(うるせェ・・・)嬢ちゃ・・・名無しさん殿は、今日はもう疲れてるから宴は無理なんじゃないですかねー、と」
「安心しろ、佐助!」

 耳元で叫ぶ旦那はマジでうざい。何が安心だよ、と 聞くと、自信満々に返された。

「実はこうなると思って、名無しさん殿に道中そのことを聞いたのだ。名無しさん殿は宴が大好きだから、とても楽しみだと」
「ふむ、決まりだな。幸村、よくワシを解ったな!」
「なんのこれしき! この幸村、どこまでもお館様についていきまするうううゥァァアア!!」
「幸村ァァァァアア!!」
「うお館さぶァァアア!」

「(転職してえ・・・)」





 
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