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□More Service?
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ピンポーン。
「……何やってんだアンタ」
「えへ、家出しちゃ」
「Good luck.」
「ノォォォォォォ!!!!!」
学校が終わり家に帰ると、玄関でお母さんが角を生やして待っていた。理由は言わずもがな、その手に握られているこの間あったテストの解答用紙。そこには、のび太くんが歓喜するような数字が赤いペンで乱雑に記されている。
そのおかげでさんざんガミガミと言われ、まあそれは我慢できますよ、だってわたしが悪いんだもの。しかし、その後がいけない。なぜかテストの話から徐々にわたしの人生についてずれていき、しまいにはバイオレンスな言葉まで出てくる始末。そして売り言葉に買い言葉、「もうこんな家出ていってやる!」と荷物もそこそこに家を飛び出したのだった。
「というわけなんです、だから泊めてください」
「それでわざわざ隣町まで来るアンタはすげーな」
普通近くの友達選ぶだろ、と政宗さんは言った。フフン、わかってないですね相変わらず。ピンチをチャンスに変える、つまりこの家出を利用して政宗さんともっと仲良くなるっていうのが名無しさんちゃんの狙いなんだからね! 財布にもギリギリ電車賃入ってたしセーフ。ケータイは…ちょっと充電寸前だけど。
それに現実、政宗さんの家は有名な極道一家で、屋敷も広いしわたし一人分くらい余裕あると思う。そして何より政宗さんは優しいのだ、見かけによらず。第一今こうして、突撃お邪魔しても客室に案内してお茶を出してくれてるし。いや、ほんと惚れますわ。
「一泊なら構いやしねーが」
「やったー! ありがとうございますダーリン!」
「どさぐさに紛れて何ほざいてやがる」
感動のあまり抱きつこうとしたけど、それは小十郎さんにより阻止されてしまった。チッ、ほんとタイミング悪い…!
「政宗さんと一つ屋根の下で一緒に暮らしてるからって偉そうにしないでくれますか?!」
「俺がいつ偉そうにしてんだ、てめーの目は節穴か」
「違います、いつでも政宗さんを追跡監視できる千里眼搭載です」
「そうか、よし、目玉抜き取ってやらァ」
「ホギュアァァァァ!!」
両ほっぺをぐわしっとつかまれ、小十郎さんの太い指が目の前に迫る。お願いだからゴキゴキ関節鳴らさないでください怖いですからほんと調子に乗ってすいませんでした、わたしが偉そうにしてました!!!
「Hey,小十郎。その辺にしときな。どうせ今日は他の奴らが出払って誰もいねーんだ、アンタも遠慮することはねえ」
「政宗様…」
「ええっマジですか!?」
なんというベストタイミング! これって運命だよね! うわあやったー嬉しい、政宗さんと一夜を共にすることができるなんて。これで小十郎さんがいなかったら、なんて叶わない願望は抱かないよ、これでいいのだ。
そんな時。安心したせいか、お腹がグウ〜と音を立てた。すぐに両手で抑えるようにしたけど、わかってます無駄だってこと。うう、恥ずかしい。二人の反応はやはり、呆れ半分笑い半分で。
「名無しさん」
「なんでしょう小十郎さん」
「飯の支度手伝え」
「! イエッサー!」
ピンときたわたしは、すぐに立ち上がり、荷物をその場に置いて小十郎さんに続き部屋を出た。
「小十郎さん小十郎さん」
「なんだ」
「えへへ、ありがとうございます!」
「…?」
「これって、花嫁修業ですよね!」
「……………」
前の方で小十郎さんが額に手のひらをあてていたらしいけど、わたしは気付かず、ニコニコ笑っていた。