ハラス

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「あっちゃーあ、何やってんだよ旦那」

 はっきり言えばいいのに、ず〜っとうだうだ言って、結局 独眼竜来ちゃったよ。この状況を見て、ため息をつかない奴なんか一人もいねーな、うん。境内にある大木の上で、俺は腕組みをして、状況を見守ることにした。優秀な忍の俺様だから、耳はいいんだよね。ちょっと遠くても、ほら、ちゃんと聞こえるさ。

「だ、伊達政宗・・・!! おぬし何故ここに・・・!」
「Huh? 野暮なこと言ってんじゃねーぜ真田幸村ァ。決まってんだろ、迎えにきたんだ。こいつのな」

 こいつのな、という部分で、独眼竜の旦那はぐったりした嬢ちゃんを指さした。人に指さしちゃいけないってお袋さんに習わなかったのかね、って、言っちゃいけなかったか?
 ちなみに嬢ちゃんをあんな状態にしたのは間違いなく独眼竜だ。黒に近い、といってもこの闇じゃあ黒としか見えない浴衣姿で、眼帯のかかっていない方の目がギラギラと光っている。
 そしてちょうど階段から駆け上がった時、(その姿にどうやら興奮したらしい)彼女のおでこに手のひらつけて、強制的に地面に後頭部ぶつけさせた。運動神経の鈍そうな嬢ちゃんは、もちろん避けれずに奇声あげてぶっ倒れちまったわけだけど。惚れた女相手にあそこまでするって、伊達政宗ってのは本当におかしな奴だ。
 一方、真田の旦那は不快げに眉をひそめた。

「・・・それならば名無しさん殿が手紙に書いたはずでござる。それがしが奥州にお連れすると」
「そんな事も書いてあった気がするんだが、悪いねェ、覚えてねえんだ。それにここまで来ちまったんだ、俺がこのままこいつを持って帰る」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

 その後、しばらく無言で二人がにらみ合う。うわー、戦以外で旦那がこんな目ェつりあがらせてんの、初めて見るよ。今はとりあえず見守る立場にいよう、そうしよう。それに言うじゃん、人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえってな。俺様こんなことで死にたくないし。
 ふと気づけば、すでに花火は終わり、聞こえるのは町の人々の声だけだ。そんな中口火を切ったのは、旦那のほうだった。

「伊達政宗。おぬしに聞きたいことがある」
「言ってみな」
「・・・名無しさん殿は、はっきり言った。政宗殿が好きだと」
「・・・・・・」
「だが、おぬしはどうだ? 名無しさん殿に、いつも暴力や暴言ばかりはいて、・・・今のこともそうであろう」
「・・・・・・」
「それがしは許せないのだ。好きなおなごを大切にせず、いや、まずおなごに暴力を奮うこと自体! 男の風上にもおけぬ」

 まあ、旦那の言うことも最もだろうけど。
 きっと独眼竜の奴も、俺と同じ事を思ってるんじゃないだろうかね。まったく動じてない顔だし。
 嬢ちゃんを米俵のように担ぐと(ひでェ・・・)、旦那を見おろして一言、「アンタの恋慕話なんざこれっぽっちも興味ねーんだよ」と口を開いた。

「それにしてもアンタから随分と酷い言われようだが、俺はこいつを大切にしなかった時はねーよ」
「・・・・・・・・・」

 大切、ねェ。そんならさっきの暴力はなんなんだ、という話になるけど、きっとそういう意味じゃねーんだろうな。もっと広い、大きな、包容した、そういう意味で独眼竜は嬢ちゃんを大切にしてるんだ。旦那にはまだわかんねーかもしんないけど。
 黙り込んだ旦那を一瞥して、独眼竜はフンと鼻を鳴らす。

「まァ、経験の浅ェアンタならわかんなくてもしょうがねーな。今度、そこにいる猿にでも教えてもらいな」
「猿・・・? 佐助かっ」

 あら、バレてたの。まーちょうどいいか。
 旦那が振り向くと同時に、俺様は荷物を持って華麗に着地した。嬢ちゃんの荷物だ。何が入ってるかわかんないけど、がちゃがちゃとやかましい音がする。時折べちょべちょなんてのも聞こえる(本当に何入れてんだこの子・・・)
 その荷物を、独眼竜に軽く投げた。それをきちんとつかむ当たり、そこまで酷い扱いはしてないようだ・・・多分。だって嬢ちゃんてば、随分とこの男の悪口言ってたからなあ・・・暴力的だの暴言的だの。まあ、どっちかといえば伊達よりも片倉への愚痴が数倍多かったんだけどね。

「ほい、独眼竜の旦那。嬢ちゃんの荷物だ」
「Thanks. こいつが世話になったな」
「いーえいえ。こちらも随分といい思いさせてもらったからねー、旦那?」
「・・・・・・うむ」

 なんとか旦那も立ち直ったらしい。
 安堵する俺様の横に立つと、旦那は伊達の旦那を見据えた。今の真田の目は、何かを決意したような、力強い目だ。

「ならばそれがしも、名無しさん殿を大切にしてみせるでござる」
「Oh, really? んじゃ俺は高見の見物といこうかねェ」
「ぐっ・・・!! 伊達政宗め・・・!!」

 その目を優雅にあしらって、軽く笑う。あちらさんってば随分とまあ余裕だな、こりゃ。まあそりゃそうだろう、嬢ちゃんが心底惚れてんのわかってんだし。でもねー奥州の筆頭さん、あんまりうちの旦那を見くびってもらっちゃあ困るよ。

「でも惜しかったよねー旦那、もし独眼竜が来なかったら嬢ちゃん旦那になびいてたかもね」
「そっそれは誠か佐助! 破廉恥な!」
「・・・・・・いや、嘘。嬢ちゃんがそんな簡単に心変わりするわけないから」

 ま、これは黙っておこう。たまーにだけど、嬢ちゃんが何かと葛藤してたり(急に絶叫したりね)、旦那を見てぽーっとしてたのは、間違いなく惹かれそうになっていたからだ。これは忍じゃなくても人目見りゃわかるけど、甲斐の人間は大雑把だからねェ・・・きっと俺様以外気づいてないだろう。だからもし、奥州の祭とやらが1日でも遅れてたら、本当にどうなってたかわからなかった、かもしれない。
 旦那は俺様の、素敵な秘密をまったく知らずに、しょんぼりと頭を垂れていた(なんだかんだ言って期待してたんだ、旦那・・・)

「いや・・・しかし、それでこそ名無しさん殿でござるな。うむ、そうだ! それがしは負けぬ!」
「何 一人で自己完結してんだアンタ・・・。ま、別にいいんだがね」

 独眼竜はスタスタと階段を下りると、用意してあった馬に嬢ちゃんを、そりゃもう荷物のごとく どさりと放った。意識のない嬢ちゃんはうつぶせの状態で腹をしたたかに打ったらしく、蛙がうめいたような声をあげる。大切にしてるって宣言した直後にこの現場を見ると、嘘だと叫びたくなるよ・・・・・・。
 さすがに嬢ちゃんを可哀相に思った俺が進言するも、

「あのさ・・・あんなんでも一応女の子だし、ちゃんと座らせてあげたほうがいいんじゃない?」
「You worry too much. この女にゃ、ちょいとお仕置きが必要なんでな。何、甲斐を出たら水ぶちまけてちゃーんと起こしてやるよ。その後座らせてやる」
「・・・・・・・・・」

 合掌する俺様、それを聞いて早速 文句を言う旦那、それらを肩越しに見た独眼竜は、にやりと笑って「Ha!」と馬を走らせたのだった。
 うーん、なかなかの強敵だね、こりゃ。同情と励ましの意味で、旦那の肩をポンポンとたたいてやる。

「大変だね旦那、また別の戦が増えちゃって。しかも相手がまた伊達政宗っていう・・・」
「許すまじ、伊達政宗・・・!! 名無しさん殿にあのような扱いをするとは!! やはりそれがしが送ったほうが良かったはずだ!!」
「・・・・・・」

 ここにもいたよ、俺様を無視する奴。









誰か俺様の愚痴聞いてくんない?
政宗さんの場合、二人の時はツンツン、その他にはデレ発言が多発してる気がするな・・・。

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