ハラス

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 まだ濡れている髪にタオルを押し当てながら、わたしは政宗さんの腕に腕を巻き付かせながら広間に入った。えっへっへーこれぞ女の子の特権だよね、小十郎さんがこんなことしてたら気持ち悪いことの他ないもんね! そして「名無しさん・・・離れねェか」と政宗さんに言われるまでそれが続き、おかげでタヌキちゃんはなんだか機嫌が悪そう。自分とまったく遊んでくれないくせにこの人とはとっても遊んでるーとか思ってるんだろうな。このゴタゴタが終わったら遊んであげよう。

「小十郎、狸は出したか?」
「いえ、それが・・・」

 見れば長曾我部さんと、さっきまでこっちを見ていたタヌキちゃんがキーキーと格闘している。タヌキちゃんはまだ口の中に袋を入れていて、長曾我部さんはその袋のはしをつかんでいるもののなかなか取り出すことができず躍起になっている。変だな、わたしは長曾我部さんより明らかに腕力も握力もない。なのにどうして、タヌキちゃんと出会った時はあっさり(とは言えないけど、今よりは随分とあっさりだ)巾着袋が取れたんだろう。さっきはそうでもなかった、でも今はとっても大切ー・・・とか?

「政宗さん、どうしてタヌキちゃんは、あの巾着袋が好きなんですか?」
「わからねェ」

 気のせいじゃない、政宗さんも間違いなくイライラしてる。それから腰元の刀がきらめいている気がしてならないんですが。これは気のせい・・・だよね。うん、気のせい! 優しい政宗さんがそんなことするはずないん だか

「いっそのこと、狸ごとぶった斬ってやろうかね」
「鬼ィィィィィィ!!!」

 うるせェ!と叩かれたけど、ここは負けない。なんとしてでもタヌキちゃんから袋を取り戻さねば。わたしはタヌキちゃんの背後に膝をつくと、そのままひょい、と抱えた。ひょい、といっても実際はそんなに軽くなかったんだけど、でも持てない重さじゃない。タヌキちゃんが可愛らしく手足を動かす間に、長曾我部さんがその口に手をかけた。

「ハッハ! やっと追いつめたぜ狸!」
「・・・顔が、政宗さんと同じくらい鬼だ」
「あ? ったりめーだろうが、鬼以外のなんだってんだよ」
「ヤンキーなアニキです」

 うん、やっぱり長曾我部さんはアニキだね!(ヤンキーの) いっぽう、ついに万事休すのタヌキちゃんだけど、よほどこの巾着袋が好きなのか、まっったく離そうとしない。ぎゅううっと袋を引っ張る長曾我部さんに負けないくらい、ぎゅううっと歯をくいしばる。・・・でもこれ以上やったら、袋がやぶけるか、タヌキちゃんの歯が危なくなるかもしれない。そう思ったのはわたしだけじゃなかった。政宗さんが一歩踏み出してパンパンと手を打ち、わたしたちの動きを止める。

「もうそろそろやめときな。今日はおひらきだ、ここいらでdinnerにする。小十郎」
「はっ」

 以心伝心というべきか、政宗さんが名を呼ぶだけで小十郎さんが腰をあげる。チックショーなんだか羨ましい! わたしもいつかあんな仲になれたらいいのに。まあそれは後にして、と。わたしはなんの問題もないけど、長曾我部さんは別だった。

「ハア? 何言ってんだオメー、みすみすコイツを見逃せってのかよ!」
「狸はきちんと保護するし逃がしもしねェ。袋は絶対に出してもらう。ただ、力まかせじゃあ解決できねェ」

 そう言うと、政宗さんは広間を出ていった。なんだ・・・。政宗さん、結局タヌキちゃんのこと大切に思ってくれてるんだ。ホッとして、わたしはそのままタヌキちゃんを抱きしめた。あー本当にあったかいなあ。ふと立ち上がった長曾我部さんが忌々しそうにタヌキちゃんを見た後わたしに視線を変えた時、なぜかハッとしたような表情になった。それが不思議で、首をかしげて聞く。すると長曾我部さんは苦笑いをしながら「名無しさんにみっともねェ姿見せちまった」と呟くように言った。動物相手に怒る自分が情けないのかわからないけど、その声がなんだかさっきまでの快活さがなくなっていた。

「長曾我部さん」

 そんなアニキを見るのはしのびなくて、わたしは長曾我部さんの前にまわると、抱いているタヌキちゃんを見せた。わたしの行動に、今度は長曾我部さんが片方の眉をつり上げる。タヌキちゃんは相変わらず無垢な瞳で、目の前の巨体を見上げていた。

「悪かったなーって思ったらちゃんと謝らないとダメですよ」
「はあ? なんだそりゃ」
「アニキっていうのは、悪かったら素直に謝ることも大事なんです! 動物が相手でも一緒、はい!」

 ずいっとタヌキちゃんを突き出す。長曾我部さんは「・・・あ゛ーっ!」と首のうしろをかいた後、キョロキョロとあたりを見回した。・・・恥ずかしいのかな、政宗さんたちに見られるの。でも観念(?)したのか、彼の大きい手が、タヌキちゃんにのびた。

「わりーな」

 一言だけど、長曾我部さんらしい。言った本人もスッキリしたのか、タヌキちゃんの頭をなでようとゆっくり手を差し伸べていった はずが。



 ガ ブ



「いっでえええエェェェェェェ!!!!」

「えええええええ!! タッタヌキちゃああああああん!?!!」


 あろうことかその手に勢いよくかみついたタヌキちゃん。どうやら長曾我部さんの仕打ちを許していなかったようです! ギャアアアとわめく長曾我部さんの手にガジガジとかじりつくタヌキちゃん。わたしが慌てて止めようとしたその時、何かがポトリと畳の上に落ちた。

「・・・・・・」

 ぴたり、と動きが止まる。わたしと長曾我部さんの間、つまりタヌキちゃんの下に見えるもの。それは、紛れもない、ちょっとよだれがついてるけど間違いなく巾着袋だった。

「「・・・・・・・・・・・・え」」









あれっあっけないや。
アニキそろそろおいとまの時間です。

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