ハラス

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 「あれっ」と声を出して首をかしげる。アナタの名無しさんですよー、と声を張り上げても政宗さんの姿が現れない。おかしいなあ、これでいつもやってくるのに(その後殴られるんですがね) 小十郎さんと合流して聞いてみると、どうやら政宗さんも別の入浴所にいるらしい。タヌキちゃんを小十郎さんに任せて、わたしは素早くその入浴所にとつげ・・・じゃない、駆けつけた。


「政宗さーん」


 途中 服が脱ぎ捨ててあったので、その先には行かずその場でストップ。けれども返事がない。おかしいなあ、服もあるし小十郎さんもここだって言ってたのに・・・。もしかしてのぼせたりしてるのか、な? あれっそれってヤバくないか?! いけないことだとは思いながらそしてちょっとワクワクしながら(本音がついつい)目の前にある、竹が並んでできている仕切りから顔をひょこっとのぞかせる。おお、わたしが入っていた所より広い。殿様専用なんだろうか。けれど肝心の殿様は見あたらない。というか湯気がむわむわむわむわ、とものすごい上がってるものだから、見えたとしても影くらいで・・・うーん、見づらい!

 Ah? 今名無しさんのアホの声がした、か? いるはずねェか、アイツは今頃 あの風呂で調子に乗ってるだろうしな。俺としたことが、こんな些細な時間まで奴を気にしちまってるなんてとんだ笑いぐさだぜ。


「政宗さーん! 入りますよお、いいですねー! ・・・と、その前に」


 ちらかっている服をたたんで抱きしめて匂いをかぎとって満足してから、わたしは仕切りの向こうへと移動した。ドキドキするなあ、だって一度も政宗さんと一緒にお風呂入ったことないし夜だって別々だし海へ行っても何も進展ないし(むしろ虐待ばかりでした) だからそれはつまり、この風呂で何かが変わるかもしれない、ギャハー!! ・・・・・・と、妄想が湯気よりももわもわっとふくれあがる中。わたしは 忍び足だったのを普通の足取りへと変えて、ついにはスキップまでするようになっている。同じ所をグルグル回っているつもりじゃない、それほどこの風呂はとっても広いのだ。現代にはなさそうなこの風呂は、水だったら「これ池なんだよね」と言っても別に大丈夫なくらいだと思う。さすが政宗さんだよなあ。


「・・・んっ、あれは!」


 あそこの仕切りから遠ざかっていった時、政宗さんを発見した。のんびりとくつろいで緊張感がゆるんでいるのか、背後でしげみが揺れたことにも気づいてないみたい。わたしがそこに隠れたとは思ってもいないようで、ちょっと安心する。

 有り得ねー話だが、どうやら俺はあの長曾我部にjealousyを抱いちまってるらしい。名無しさんがあの男をアニキと呼ぶたびになんだかムカムカしやがる。今までアイツは俺と小十郎以外の人間になつかなかったから余計にだろうな。少なくとも2回ほど会っている真田やあの猿は名字呼びのくせに、初対面の長曾我部はアニキだと? ふざけてんじゃねえ、ああ腹が立つ。coolになれ、俺! ・・・今茂みが揺れた気がしたが、まあいい。


「・・・(って、なんでわたし隠れてんだ?!)」


 普通に出て蹴られるなりなんでもいいから風呂に飛び込んで政宗さんにアタックすればいいのに。そう自問自答して「もったいないことしたネ」と自分にバカにされながらわたしはその行動ができなかった。いや、そりゃ確かにタイミング失ってすごいもったいなあと思ったけど、今 政宗さんは伊達家を背負ってない普段の政宗さんに戻っているわけで、わたしのことも小十郎さんのこともあまり考えてない。そんな時間、殿様にはほとんどないんだろう。だから邪魔しちゃいけないかなあーと思ってる、けど。


「・・・・・・はああ・・・!」


 あの背中に今すぐ飛びつきたいです。なんだよあのたくましい背中、こっちに向けないでくださいよ・・・バカ・・・! よだれが出そうになったので反射的にすすると、直後 政宗さんが「誰だ!」と振り返った。うおわ、復活?! さっきは気づかれなかったのに、なんで突然・・・!? さっきとは違う恐怖の意でドキドキしていると、ざぱっと騒がしそうな水音がした。そしてパシャ、パシャとこっちに向かい・・・え? あれ? なんだか気配が近付いてくるぞ? そんなふうに状況が飲み込めないわたしめがけて、あの低い声がつきつけられた。


「・・・・・・名無しさん・・・」
「・・・え、えへ! 政宗さんとどうしてもお風呂入りたかったんですう」
「そうかい、俺もちょうどそう思ってたところだ」
「えっマジですか!」
「ああ」


 わたしは ぐいっと胸元を引っ張られ立ち上がらせられて、そのままお湯の中にドボーン!!と入ってしまった。ひでえ、この人本当にひでええ!! のぞいたくらいでここまでしなくていいじゃないか、短気人間んん! ・・・と、声に出して抗議したとたん政宗さんが足でお湯をぶっかけてきた。ぶへっ、鼻に入ったァ! しみる! すんごいしみる!!


「なァにが短気人間だ! アンタといたらどれだけ暢気な奴でもstressたまるんだよ!」
「そんなの愛があれば大丈夫です! ラブアンドピース、この世のモットーはラブアンドピイイッス!!」
「誰のせいで俺のpeaceがなくなってると思ってんだ」


 だいたい何しにきたんだアンタは、ただの のぞきかコラ。政宗さんがそう吐き捨てるのにわたしはハッとする。忘れてた、わたしの目的はのぞきじゃない。


「そうなんです政宗さん!」
「・・・アンタ墜ちたな」
「ちッがーーーーう!! そっちの肯定じゃなくて用件です用件! タヌキちゃんが見つかったんですよ、ていうかわたしが見つけたんです」
「!」


 驚いた政宗さんだけど、なんだか安心したようにも見えた。わっはは、夫を安心させるのも妻の役目ってね! 政宗さんに見えないように後ろを向いてこっそりとほくそ笑む。これで政宗さんは間違いなくわたしの素敵な働きに感謝することだろう。あそこにタヌキちゃんがいたことと自分の運にグッジョブ、と親指を突き立ててやりたい。でもその前に、お願いするものがある! 勢いよく振り向いて満面の笑顔で、


「そんなわけで政宗さん、ごほうびのチュ ってもういねえええし!!!


 気づけば政宗さんはすでに着替えをすませており大声で「じゃあな!」とニヤニヤ笑っていた。シット!!









風呂場を覗く女は何処を探してもアンタだけ
リク提供者さまありがとうございました!

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