小説

□想い人
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『想い人』


「あらっ、近藤さんお久しぶり!」

「最近来なかったケド元気だった?」

歌舞伎町のキャバレークラブ「すまいる」
その店内の階段を降りてきた近藤におりょうや阿音が快活な声をかける。

ほぼ一日おきで来店していた男が3週間以上も顔を見せなかったので
キャバ嬢達は普段は鼻もかけない近藤に近寄ってくる。

「おりょうちゃん、阿音ちゃん久しぶり」

元気のない近藤の表情におりょうが
「お妙呼んできましょうか?今 接客中なんだけど・・・」
と、気遣いを見せた。


店内の奥を見るとお妙は中年客の接待をしていて入り口には
まったく気づいていないようだった。
楽しそうに会話をしている・・・ように見える。

「……いや…ごめん。やっぱり今日は帰るわ」

「ちょ、近藤さん!?」

近藤は急ぎ足で店から出て行った。


大通りに出るとねっとりとした夜風が吹いており
近藤はその空気を大きく吸い込み、ため息と供に吐き出した。
(お妙さん相変わらずキレイだったなぁ〜)

遠目だったけど自分の愛しい人の顔を浮かばせながら
少し幸せな気分になれる。

(会わせたかったな、先生にも…)

先生がお妙さんを見たら、綺麗だと賛同してくれただろうか。
俺には高値の花だ、諦めろと嗜めただろうか。
女をおっかける暇があれば仕事をしろとトシのように
怒ったかもしれないな。
ふとそんな事を考えて、一人含み笑いをする。

ん〜!と背伸びをして、さて屯所に帰ろうと歩を進めようとした所で

「近藤さんっ!」

と女性の声に呼び止められた

「お、お妙さん?」

振り向くと、先程店に居たお妙が肩で呼吸をしながら
近藤を睨みつけていた。

「おりょうちゃんに貴方がお店に来たって聞いて…それで…」

「追っかけてきてくれたんですか!?」

「調子に乗るんじゃねぇこのクソゴリラァ」

「ぐほぉぉぉぉっ!」

近藤はお妙の見事な飛び蹴りで後ろに吹っ飛ぶ。

「私はアナタなんか待っていません!追いかけてもいません。」

「え?…じゃあ何で?」
蹴られたみぞおちを摩りながら質問すると
お妙はまっすぐな瞳で答えた。

「久々ストーカーゴリラが現れたと思ったら
コソコソ逃げ帰るなんて・・・らしくないじゃないの。
来るなら来る!来ないなら来ない!はっきりして下さい!」

「すみません。本当は店でお酌してもらうつもりだったんですが
お妙さんの姿見れただけで胸が一杯になってしまって…」

「新手のくどき文句ですか?言っておきますが私には通用しませんよ!」

怒った顔もやはり可愛いなんて近藤は思ってしまう。



「・・・新ちゃんから真選組の事、聞きました」

お妙が話題に持ち出したのは先月起こった真選組局長を
狙ったクーデターの事である。

「・・・ああ、新八くんにも助けて貰いましたから・・・」

「仲間から命を狙われたそうですね」

「まったく不甲斐ない話です」

「命を狙った人間を助けたそうですね?」

「結局は死なせちまいましたが・・・」

「大切な人だったんですか?」

「大切な仲間です。それは今も変わりません」

「・・・だったらその人の事、話してくださいな。今日は特別に
ドンペリ1本で話を聞いてあげます。」


ニコリと笑うお妙の顔はとても綺麗で
つられて笑みが零れた。

そして、やはり伊東先生に会わせたかったと
ちょっと泣きたくなるのだった。


 -END-

 2009/04/20

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