モノノ怪小説
□意識の闇の花びら。
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麗らかな風が吹き抜けて行く丘の午後のことであった。
奇抜な赤の隅取り顔化粧に、大きな薬箱を背負った男が一人、桜の花びらを目で追っていた。温かな春の日差しに包まれる様に、すぐ近くに川の見える柔らかな草の上に腰を下ろして、薬箱にもたれかかるように寛ぐ。さわさわと木々を揺らす爽やかな音に体を休め、目をゆっくりとつむりまどろむ。
『…実に、、温かい。』
春麗らな気候は直ぐに眠気を誘う。春眠暁を覚えず、と故人が言うように…。
春風はゆらり、ゆらりと薬売りを温かな意識の闇へと落として行く。
まるで時が止まったかのような感覚…。