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□Un cappuccino
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『Un cappuccino』
長い足を組み、眼鏡で表情を隠している黒髪の男の傍らの椅子を引きながら銀の長い髪が揺れる。低い声で注文を終えるとタガタと音を立てて無作法に、椅子に座るその姿に黒髪の男はわずかに眉を上げる。
「べっつにマナー気にするような場所でもねぇだろうが」
アンタの屋敷でもないんだぜぇ、ココは、とニタリとわざと笑うと黒髪の男は露骨に嫌な顔をしてみせた。
「マナー云々の前にテメェの存在そのものが下劣の塊だな」
「公衆の面前で言ってくれんなぁ。なんだ?公開調教でもしようって魂胆かよ」
盛大に顔をしかめると机の下で足を蹴る。痛ってぇなぁ、とぼやきながらも銀髪の男は不遜な表情を崩さない。
「それで?女みたいにクソ長え買物は終わったのかよ」
「っつか、アンタが自分の着るもんなのに採寸終えるとさっさと出て行っちまうから長くなるんだろうがぁ」
幹部を使用人代わりに使うんじゃねぇよ、とぶつぶつ言いながらも機嫌の良さは変わらないようだ。
カプチーノをテーブルに置いたウェイターにも愛想よく笑顔をふりまいている。
「・・・おい」
「あぁ?」
カップをかたむけている姿に違和感を覚え、声をかける。
「砂糖はいれねえのかよ。」
甘いものを楽しむとき以外には必ずと言っていいほどこの男は珈琲に砂糖を入れるのだ。
どうでもいいような違和感ではあるが、どこか楽しそうな男の様子と抜けるような青空の下で暗殺部隊のトップと部下が二人、暢気にカップを傾けている状況に何とはなしに口にした。
「あーうん、入れねぇよ。今日はなぁ」
カップを置いた男は口の端を吊り上げて見せると小さなテーブル越しに上半身を猫のようにこちらに伸ばしてきた。男の銀糸がさらさらと胸元にふれる。
かけていた眼鏡を外されて覗き込まれる。
薄いグレーの瞳が間近で悪戯っぽく光り、額に触れる唇の感触。
「俺が甘ぇんだから丁度いいだろぉ・・・ってう゛ぉっ!」
生意気な事この上ない部下の唇を舌で舐めあげてやると、顔を真っ赤にして怒りはじめた。半端に仕掛けてくるからこういう目に合うんだよ、カスが。
「ああ、たしかに丁度いいな。テメェに似合いの下品な甘さだ。」
ぎゃぁぎゃあと喚く銀髪の男を余所目に眼鏡をかけなおすと黒髪の男は足を組み替え、涼しい顔で己の手元のカップを持ち上げた。
2008.2.21