†Wahiawa†

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A pretext.【1】


 
これで何度目だろう?
 
 
朝から幾度となく鏡を覗いてはおかしな所はないか確認する。
 
今も無意識に鞄から鏡を取り出そうとしている自分に気づいて恥ずかしさが込み上げた。
 
 
バカみたい。
既にすっぴんのヒドイ状態を何度も見られてるのに。今更、気にしたってしょうがないよね。
 
 
わたしは1人微笑むと手にした鏡を鞄に戻した。
 
今日は海じゃなくて街で杠くんと会う約束の日。
事実上の初デート。
 
昨日の夜から悩みに悩んだ挙げ句、わたしはお気に入りのワンピースを選んだ。 
 
気合い入り過ぎに見えるかな…。
 
 
少し不安になったけど目の前を皆、オシャレをして楽しそうに通りすぎていくのを見て安心した。
 
 
今更着飾っても遅いのはわかってる。
でも女の子ならやっぱり好きな人に少しでも可愛いと思ってもらいたい。
そういうものだよね。
 
 
待ち合わせをした改札口から流れる人波を見ながらそんな事を考えていると肩を叩かれた。
 
振り返るとそこに息を切らせた杠くんが立っていたので自然と笑みがこぼれてしまう。
 
 
「杠くん!」
「蛍…ごめん待った?」
「平気だよ。杠くんこそもしかして走って来たの?」 
 
わたしの問いかけにニッコリ笑うと額の汗を拭った。 
 
「ちょっと出るの遅れたから待ってるかと思って。」「遅れるならメール貰えれば大丈夫なのに。」
「ああっ!そっか、そうだよね。思い浮かばなかった。」
「アハハッ。」
 
 
杠くんは苦笑いするとわたしが差し出したハンドタオルを受け取って「ありがと。」と微笑んだ。
 
ハンドタオルで汗を拭き、無造作に指で髪を掻き上げる仕草にドキッとする。
 
 
元々15分ぐらいの遅刻なんて怒ったりしないけど、そんな汗をかく程急いで走って来てくれた姿を見たら怒れないよ。
 
 
杠くんはわたしが止めるのも聞かず、洗って返すと言ってタオルを自分のポケットに押し込んだ。
 
 
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