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□幻想舞踏会 T
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それは、本当に偶然だった。
友達と食事に行って、少し帰るのが遅くなった日。
雨の中、しかもいつもより遅い時間の繁華街は、いつもとは違う雰囲気を纏っていて。
「……あれ?」
…だからこそ、気になった。
親とはぐれたんだろうか、傘も差さずにうろうろする小さな女の子の姿。
その後ろ姿に声をかけるべきか迷っていると、
「ちょっ…!!」
急に駆け出して、路地裏へと入っていってしまった。
もう遅い時間、そんな場所が安全なわけがない。
しかもこの辺りの路地裏は入り組んでいてわかりにくい。
慌てて追いかけると、更に奥まった所にいかにもな女性と、自分が追いかけた少女。
自分が探していた時間を含めても、見失っていたのはほんの数分だったはず。
なのに既に遅かったのか、片方が地に伏せっているのが遠目からでも見て取れた。
声もかけられず、動くことも出来ず、ただ呆然と見守っていると、見下ろしていた方がいきなり首筋に噛みついた。
その様子は、例えるならバンパイアのようで、
驚きと恐怖で永遠にも感じられる数分のあと、ゆっくり身を起こし振り返った彼女に、
今度は別の意味で動くことが出来なかった。
さらさらの栗色の髪に、アメジストより尚澄んだ紫の瞳。
唇はこぼれた血に赤く濡れて幻想的な光を放っている。
柄にもなく見惚れてしまっていたのかもしれない。
彼女の瞳がふっと細められることすら、愛らしいと思ってしまうほどに。
「あ〜ぁ、見つかっちゃった。」
その幼い声が、妙にその場に響きわたった――