【刻まれし時空の痕跡・黎明】
□君と、この街で……
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珍しいね、と彼女は言った。
「そう?」
「うん、珍しい。
ソラが、此処に来たがるなんて……」
今、僕達がいる場所は、
『Δ 隠されし 禁断の 聖域』
その、聖堂の中。
厳かで神聖なるその奥には、八つの鎖に戒められた、少女の像が奉られている。
ある日忽然と現れたそれは、僕たちがやっているゲーム……『The World』の幾つかある謎の一つ。
大体の憶測だけれども、その理由を知っている者達は、ゲームのシステム管理者やユーザーも含めて、ほんの一握りもいないだろう。
「カールきゅんはどして、不思議に思うの?」
「だって……」
と言ったまま、彼女は沈黙する。
言って良いものかどうか、測りかねてるのだろう。
「たまにはね、こーゆー処にも来たくなるものなの」
ツタツタと奥へと歩きながら言うと、
「そうなの?」
僅かな驚きを含んで、カール。
「うん。そ!
だってさ、此処って滅多に誰も来ないじゃん? ここって、な〜んも起こらないし」
その、なにも起こらなかった所で、ある日突然、なにかが起こったワケだけど。
それは、今はどうでもいいこと。
「それに、ちょっとした気分転換ってヤツ?」
「そうなんだ?」
「そだよ」
「ふ〜ん……」
暫く考え込んでいるようで、彼女は黙ってたかと思うと、遠慮がちに言を継いだ。
「……なにか、用があるのかな? と思って……」
「用?」
「ほら、誰も来ないしって言ってたから、なにかあるのかな? て……」
少女の像の前で、僕はずいっとカールに接近する。
「!?」
彼女が一瞬、息を飲むのが解った。